トップ » バックナンバー » Vol.2 » 海洋探査と水色研究

Accumu Vol.2

海洋探査と水色研究

向井 苑生

はじめに

日本語では,遠隔探査と訳されるリモートセンシングの定義は,あいまいで適用範囲も広い。対象物を直接手に触れることなく,遠くから探査する事と解すれば,古くからの天文観測も,”雨夜の品定め”も,すべてリモートセンシングといえよう。本格的なリモートセンシング技術の発展は,1957年10月4日,世界中をかけめぐった″スプートニクショック”に端を発した米ソの宇宙開発競争に負うところが大きい。月,火星,金星,木星,土星,天王星と繰り広げられた惑星探査技術は,そのまま地球のリモートセンシングに向けられた。

人工衛星を用いた海洋探査は,大きく水温研究と水色研究に分けられる。植物性プランクトンは,海の食物連鎖の最重要要素である。プランクトンが増すと,海は肥沃になり,好漁場が形成される。植物性プランクトン濃度はクロロフィル濃度に反映し,海水面の色をわずかに変える。この海表面の色変化に敏感に反応する波長帯に走査計をあわせる事により,人工衛星搭載のセンサーが海洋色変化を検知する。これが水色走査計であり,得られるデータよりクロロフィル濃度分布が求まる。この海洋上層部の生産性の分析を,従来よく行われている水温研究に対し,水色研究と呼ぶ。

海洋探査衛星ニンバス

有名な地球資源探査衛星ランドサットを始めとして,さまざまな人工衛星が宇宙から地球を探るために打ち上げられている。ここでは,アメリカのNASAから打ち上げられた実験衛星ニンバスを紹介する。ニンバスはギリシャ語で雲を意味し,本来は雲の計測等大気環境のモニタリングを目的とした気象用実験衛星として開発されたものである。しかし,気象以外の調査にも役立つことがわかり,海洋探査衛星として貴重な情報をもたらしている。気象衛星タイロスの研究を基盤とした三軸安定方式を採用し,常に地球表面を観測できるようになっている。

ニンバス-7は,1964年から始まったニンバスシリーズの最新のもので,1978年10月に打ち上げなれた。蝶形の形状で,高度955km,周期104分の太陽同期軌道をとり,地方時の正午近く(北半球中緯度帯では11時半頃)に南から北へ向けて各地を通過する。搭載センサーは8種類で,電力不足をカバーするため,各センサーには,あらかじめ決められた稼働時間が割り当てられている。CZCS(Coastal Zone Color Scanner,沿岸域水色走査計)は,そのセンサーの1つで,実際に人工衛星に搭載された唯一の水色走査計である。センサーとしての予想寿命は1年間であったが,7年以上にわたって有用なデータを送り続けてきた。しかし,1984年春頃から不調が伝えられ,1985年以降,コントロールステーションから遠い日本近海のカバーは絶望的となった。

地球大気散乱光効果

図1

ニンバス-7・CZCSは,観測波長帯として6バンドを有する(図1参照)。バンド1からバンド3までの可視波長データを用いて,海面付近の葉緑素濃度が推定できる。ここで注意しなければならないのは,可視波長域においては,海洋からの放射輝度はセンサーに観測される全放射輝度の10%にも満たないという事である。これは主として,衛星と海面の間に存在する地球大気での太陽光の多重散乱に起因する。リモートセンシング分野では大気効果と呼ばれ,原画像から大気効果を除去することを大気補正という。

大気補正処理には,地球大気-海洋モデルでの入射太陽光の多重散乱計算を必要とする。処理画像の精度は,採用した地球大気-海洋モデルの確からしさに依存する。大気モデルは,アメリカ空軍の開発したLOWTRAN6に基づいて作成する。LOWTRANとは,場所や季節を指定すると,地球大気透過率や構成粒子の高度分布等を算出してくれる地球大包アークに関するフォートランプログラムのコード名である。海面モデルとしては,風が強くなる程波立ちが高くなり,その波の傾きはガウス分布に従うというコックス・モンクモデルを使用する。

計算には,かなりの時間を要するので,得られた数値結果は,データベースに格納し,大気補正画像処理を効率的に行えるようにする。

衛星画像

図2図3図4

我々の処理手法をニンバス-7・CZCS画像に適用する。画像は全て,1981年4月14日(オービット番号12477)に観測されたものである。CCTカウントデータから,求める画像を得るデータ処理システムは,IBM3090上に作成されている。グラフィック画像はPHIGSを用いてIBM5080ディスプレイ(図2)上に表示される。プログラムは主にVS-FORTRANで書かれており,メニュー形式でプログラムが即座に選択できるようになっている(図3参照)。先ず,輝度補正および幾何補正といった前処理を行い,前節で述べた(多重散乱計算結果を格納した)データベースを呼び出して,大気補正を行う。今は海洋に話を絞っているので,陸,および雲のように明るい領域は,バンド5の原画像(図4)を用いて取り除き,灰色で塗りつぶす。

図5

バンド1,2,3の大気補正画像を用いて作成したクロロフィル濃度分布画像を図5の左図に掲げる。クロロフィル濃度(μg/ℓ)の色割当を左端のカラースケールに示す。寒色系から暖色系になるにつれ,濃度が高くなる。参考のため,水温分布を表すバンド6の赤外波長画像を,右図に載せ,CCTカウント値に対応するカラースケールを右端に示す。両画像パターンには,明らかな相関が見られる。また,クロロフィルの高濃度域は同時期の好漁場と一致している。これより,我々の大気補正手法が,日本近海の潮の流れによく対応した詳細な海面パターンを表示しているのがわかる。

おわりに

海洋探査衛星によって得られる海の生産性や構造・潮汐の流れ・水温等は海洋環境・資源に関する広範囲な情報を与えてくれる。特に,四方を海に囲まれた島国日本において,海洋リモートセンシングの果たす役割は大きい。この期待を担って,宇宙開発事業団は,昭和62年2月19日に,もも1号を打ち上げ,今またADEOS衛星の打ち上げを計画している。ADEOS衛星にはニンバス-7・CZCSと同型の水色走査計(OCTS)がコアーセンサーとして積み込まれる予定である。

この著者の他の記事を読む
向井 苑生
Sonoyo Mukai
  • 1968年京都大学理学部宇宙物理学科卒業
  • 京都大学理学博士
  • パリ天文物理研究所客員教員,ルール大学(ドイツ)客員研究員,金沢工業大学教授などを歴任し,現在近畿大学教授
  • 地球科学技術フォーラム委員

上記の肩書・経歴等はアキューム9号発刊当時のものです。