Accumu Vol.16

RIT紀行

日本の既成の大学制度ではIT分野の人材育成が,ほぼ不可能といわれる現在,ITの本場アメリカのIT分野の最高学府,ロチェスター工科大学(RIT)との強い絆に基づき,KCGは優秀なIT人材を産業界に輩出し続けています。

姉妹校RITのキャンパスの今をリポートします。

大自然の中の広大なキャンパス

RIT

緑に恵まれた平野がどこまでも延々と広がる。さえぎるものがないので空が広く感じられる。カナダとの国境線にも近く世界的な観光名所ナイアガラの滝からもそう遠くはないアメリカ合衆国ニューヨーク州ロチェスター市。ダウンタウンから車でハイウェイをしばらく走った郊外に,KCGの姉妹校,ロチェスター工科大学(RIT)のキャンパスはある。1300エーカーの広大なRITキャンパス。豊かな緑のなかに煉瓦色を基調にした機能美あふれる瀟洒な校舎が立ち並ぶ。大自然の中のキャンパスでは,鹿やリスなどの野生動物も見られ,日本の大学のキャンパスとは趣を異にする。その落ち着いた雰囲気は,学問を探求するために理想的な環境といえる。


RIT

RITは,1829年創立の工学系名門大学であり,現在8つの学部(College)を擁する。アメリカには「実用性」を重んじるプラグマティズムの伝統があるが,RITは「Alive, Dynamic and Vibrant」,すなわち「生きた学問を学び,ダイナミックに活用し,広範囲に伝播させていく」ことを教育理念とする最もアメリカ的な大学である。アメリカの要人も頻繁に訪れ,最近の卒業式にはビル・クリントン元大統領も参列するなど,いかにこの国においてRITが重要な位置を占めているかが伺われる。

RITのイメージングアート&サイエンス学部(College of Imaging Arts and Sciences)と応用科学技術学部(College of Applied Science and Technology)においては全米大学ランキングナンバー1の実績を誇っている。産学協同プロジェクトにも力を入れており,富士フイルム,コニカミノルタ,大日本印刷,キヤノン,三菱製紙,ソニーなどの日本企業のサポートによる研究所も学内に存在している。図書館はもちろん,ジム, 室内競技場,室内プール,テニスコート,室内アイススケートリンク,カフェテリアなど,学生向けの設備が完備されている。さすが若者の集う場でもあり,ヒップホップやロックのイベントなども学内で催される。

RIT
RIT
RIT
RIT

IT分野の博士号を目指す

RITで最も新しくかつ最大規模の学部が,B.トーマスガリサノ・コンピュータ情報科学部(B. Thomas Golisano College of Computing and Information Sciences)である。

RITは1990年代の初頭に,全米でもいち早くIT分野の学科を設置したことで有名である。以前は,コンピュータサイエンス(CS),IT,ソフトウェアエンジニアリングの3つの学科が別々に存在していたが,2001年に統合され,B.トーマスガリサノ・コンピュータ情報科学部となった。当初はITを専攻する学生は少なかったが,その数は年々増加し,校舎も新築され,同学部は,現在では最大規模の学部となっている。

ちなみに,京都情報大学院大学で「ソフトウェア工学特論」を担当しているホルヘ・ディアズ・エレーラ教授は,B.トーマスガリサノ・コンピュータ情報科学部の現在の学部長である。

RITで学ぶ野崎喜裕さん
RITで学ぶ野崎喜裕さん

2006年に,B.トーマスガリサノ・コンピュータ情報科学部では,IT専攻の博士課程が新たに設置された。その二期生にKCGからの留学生がいる。

野崎喜裕さんは,岡山理科大学を卒業後,企業での社会人経験や青年海外協力隊での経験を積んだうえで,KCGの国際情報処理科RIT大学院修士課程留学コースに入学した。同コースは,RIT大学院修士課程(IT専攻・CS専攻)の履修単位の約半数をKCGで履修し,残りの単位を履修するためにRITに留学をするという画期的なコースで,野崎さんは,このコースからRIT大学院修士課程IT専攻に留学した。無事に修士課程を修了した野崎さんは,一旦は就職も考え,アメリカでの企業説明会(Job Fair)にも参加したという。「日本と違って,アメリカではエンジニアの採用面接は,エンジニアが行います。ですので,かなり専門的な質問をされますし,自分にどの程度のスキルがあるかをしっかり見られます。大学院で何を学んだかが問われるのです」

しかし,野崎さんは最終的には新設された博士課程に進学することにした。「悩んだのですが,私の学業成績と研究助手としての仕事ぶりから指導教授が強く薦めてくださって,チャレンジしてみようかという気持ちになりました。私の場合は,最終的には企業で活躍したいと思っていますが,IT分野の博士号をとれば,就職時点から年収1000万円を超えることができます。日本と違ってアメリカの場合は学位と給与の相関関係が明確です。また研究助手としてリサーチプロジェクトに参加したことから,もう少し研究したいという気持ちもあり,博士課程への進学を決めました。学費の面でも大変なことはありますが,RITは,奨学制度も充実していますので,奨学金を得ながら学ぼうと思っています。」

KCGとRITの絆

RITの日本庭園

RITは世界90カ国から,900人以上の留学生を受け入れており,キャンパス内は国際性にあふれている。訪問した折には,ちょうど新しいセメスターが始まる時期で,キャンパス内で留学生向けのガイダンスも行われていた。またキャンパスの一角には,日本人留学生の保護者が寄贈したという小さな日本庭園もあった。

KCGとRITは,KCGが1994年に日本の他の教育機関に先駆けて,コンピュータアート系の学科を設置した際にも,カリキュラム設計においてRITの教授陣のサポートを受けたり,KCGの学生のRIT短期留学を実施するなど,交流が盛んであった。そうした実績に基づき,1996年に両校は姉妹校となった。

日本の既成の大学システムでは,IT関連の教育がほぼ不可能といわれ,IT分野の人材育成において世界に大きな遅れをとっている。ITの本場アメリカのIT分野の最高学府であるロチェスター工科大学との強い絆があることで,KCGは,他の日本の教育機関が為しえないIT分野の人材育成において成果を挙げている。

RITとの絆はKCGの在学生・卒業生にとっても大きなアドバンテージである。留学する際にも,姉妹校からの留学生ということでサポートを受けることができ,なによりもKCGからの先輩留学生もキャンパスにいる。他では得られないチャンスがKCGにはあるのだから,それを活かして,グローバルな活躍をしてほしい。

RITの実習室

RIT学部編入コース

RITとの間で単位互換に合意した科目をKCGで学習し,その単位がRITで専門科目の単位として認められる。KCGを卒業し,留学が許可されると,RITのIT学科とCS学科の3年次に編入が可能になる。語学力養成などのカリキュラムを備えたRIT学部編入コースとして,京都駅前校に情報処理科RIT留学コース(RIT IT学科編入),洛北校にメディア工学科RIT留学コース(RIT コンピュータサイエンス学科編入)が設置されている。

RIT大学院修士課程留学コース

KCGで1年半をかけてコンピュータ基礎科目の修得,語学力の向上を図るとともに,KCG教員による日本語での授業で,RIT大学院IT専攻・SDM専攻の前期課程の科目を履修する。その後,残りの単位取得のためにRIT大学院に留学し,最短半年でIT専攻・SDM専攻の修士号を取得する。