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Accumu Vol.3

宇宙の大規模構造

太田 耕司

我々の住んでいる銀河は,太陽のように自ら光り輝く恒星が約2千億個集まってできている。宇宙には,このような恒星の大集団である銀河が無数に存在している。銀河が宇宙のなかでどのように分布しているのかという問題は,我々の住む世界がどのような構造をしているのかという人類古来からの関心の延長上にある問題であると同時に,銀河がどのようにしてできたのかという銀河形成論や,宇宙の歴史や構造を調べる宇宙論にも密接に関わっている大問題である。観測機器の性能向上等により,ここ10年の間に,銀河の分布についての我々の知識は格段に進歩した。ここでは,その最近の観測によって明らかにされてきた宇宙における銀河の分布-宇宙の大規模構造-の紹介をしたい。

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図1は,我々を中心として半径約1.5億光年内の銀河の分布を,ある平面に投影したものである。ひとつひとつの点が1個の銀河を表している。(図中,くさび型に銀河の分布が抜けているところは天の川があるせいで観測がほとんどされていない部分である。)この図を見てすぐ分かることは,銀河というのはそれほど一様に分布していないということである。特に図の中心の少し右に塊があり,ここに銀河が集中していることがわかる。これは実は,おとめ座銀河団(地球から見るとおとめ座の方向に見えるのでこう呼ばれる)といって,銀河が1000個位集団になっているのである。このような銀河団はこの図の外側のさらに遠くにも沢山存在していることが知られている。また,図の中心を通る水平線を引くと,そのまわりに比較的銀河が多いようにみえる。さらに,この図では見にくいかもしれないが,おとめ座銀河団を中心に,放射状にフィラメント状の構造のようなものがいくつか見られる。この,おとめ座銀河団を中心に半径約1億光年内の銀河の集団を局所超銀河団という。超銀河団というのは,一般には銀河団2つ3つとそのまわりの銀河を含めた集団で,銀河団よりひとつ大きい階層構造をなしている。

図1は,我々のまわり約1.5億光年内での銀河の分布を示しているわけだが,これより外側では,どうなっているのだろうか? これより外側の銀河の分布は未だ部分的にしか分かっていないが,その例を図2に示す。

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図2は,我々から約5億光年先までの,ある程度明るい約1000個の銀河の分布を示したものである。この図は,宇宙のある部分をスライスしたもので,扇形の付け根の点が我々のいるところ,奥行きが我々からの距離を表している。また紙面垂直方向に厚みが少しあるのだが,図ではそれを投影してある。この図を見ても,銀河というのはやはり一様に分布していないということがわかる。図2のまん中あたりに銀河が集中しているが(人間が大の字になった姿のような分布を示しているが,そのくびのあたりである),これはかみのけ座銀河団と呼ばれ,この銀河団を含みそのまわり約1億光年内の銀河で,かみのけ・A1367超銀河団を形成している。また,この図においてもフィラメント状に銀河が分布していることがよくわかる。特に顕著なのは,人の両腕のように見える構造で,図の端から端まで全長5億光年位も連なっている。一方,逆に銀河がほとんど存在しない領域があることにも気付く。人型の股のあいだや脇の下あたりがその例で,サイズは1億光年位である。このように銀河がほとんど存在しない部分をボイド(void,空洞)と呼んでいる。こんな大きな規模で銀河の存在しない領域があろうとは誰が想像していたであろうか。

ところで,この図は宇宙の一部をスライスしただけで,三次元的な構造を見るには不十分である。フィラメント状に見える銀河の分布は,果して本当にひものようなフィラメント状なのか,あるいは大きなシート状のものの一部をスライスして見ているだけなのであろうか? またボイドというのは,図2を見ると泡状に広がっているのではないかと思われるが本当にそうなのか? さらに,このような網の目構造は,この領域のずっと外まで続いているのだろうか? といった疑問がわいてくる。距離はこれ以上遠くまで延ばさないが,図の厚み方向に観測領域を広げるという仕事と,もっと狭い特定の方向で,ずっと遠方までの銀河分布を調べようという2つの方向で研究が進められている。

前者の結果は今年になって発表された。図3,4がその結果である。図3は図2のスライスの上にのる領域で,図4はさらにその上にのる領域である。これらの図をつなぎ合わせて考えると,先程の,人の両腕を広げたような構造は厚みもありフィラメント状というよりはシート状に近いことがわかる。これらの図を作成した人達は,構造が壁状ということで,これをグレートウォール(Great Wall)と呼んでいる。直訳すれば,「大きな壁」という意味だが,英語では,中国の万里の長城という意味である。また,図2のボイド部分は図3,4でもボイドとなっており,確かに泡状の構造であることがわかる。これらの構造を合わせて,細胞状構造と呼ぶ人もいる。

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さて,後者の方向で研究を進めていた人達は,昨年その結果を公表し世界中を驚かせた。彼らの結果によると,宇宙の網の目構造は実に約80億光年も続いているというのである。これは,現在光で観測可能な宇宙の数分の1程度という非常に大きなスケールである。図5に彼らの結果を示す。このヒストグラムの縦軸は銀河の数を,横軸は我々からの距離を表しており,横軸中央が我々のいる場所である。180度離れた空の2方向を観測したため原点の右側と左側に図が広がっている。観測の深さはそれぞれ40億光年位だが,地球をはさむ両側合わせて80億光年というわけである。一目でわかるように,銀河の分布は一様ではなく,図2~4の網の目構造より少しスケールが大きいが,凸凹しているのがわかる。さらに驚くベき事に,この凸凹には周期性がある。この周期は約5億光年であり,その規則性は目をみはるほどである。もし,銀河の分布が図2~4のような感じで網の目状であれば,任意の方向を向いた場合,銀河の分布に図5のような凸凹が予想されるが,一般にはこんなに周期性はないはずである。もちろん,細胞状構造のある特定の方向をたまたま観測していれば,かなりの周期性はあるだろうが,そのような確率は大変小さい。今までの宇宙観からすると,この規則性は極めて考えにくく,信じ難いものである。観測されている銀河の数が少ないためにこのような結果が出ているのであって,もっと観測を進めれば周期性は弱くなるのではないかと考える人も当然いるが,なかには宇宙の等方性という大きな仮定を破ってでもこの構造を説明しようとする人もいる。いずれにせよこの観測事実は本当であれば宇宙論を根底から考え直す必要が出てくるかもしれないだろう。

ところで,宇宙は現在こんなにも非一様であることがわかってきたわけだが,今から100から150億年位前,宇宙が誕生して30万年位より以前では,宇宙は一様であったことが観測的にわかっている。この時代には宇宙は高温状態にあり,物質と光(輻射)は共に熱平衡状態になっていて,物質の方に密度のゆらぎがあれば,輻射の方にもゆらぎがあるといった状態であった。宇宙は膨張して冷えていくので,宇宙誕生後30万年後頃,輻射と物質との相互作用がきれてしまう。その後,物質の方はどんどんゆらぎが成長して銀河となったわけだが,輻射の方は昔の状態を保ったまま断熱膨張していったと考えられている。この時代の輻射が現在では,断熱膨張の結果2.7Kまで冷えており,2.7Kの宇宙黒体輻射として現在の宇宙を満たしている。従って,この輻射のゆらぎを調べれば,宇宙誕生後30万年後頃の物質のゆらぎもわかるという寸法である。このゆらぎを観測しようという試みは何年も前から主に電波や赤外線で調べられてきて,その時代の宇宙は極めて一様かつ等方的であることがわかってきた。さらに,1989年に,この宇宙黒体輻射の観測を主目的とした人工衛星が打ち上げられ,昨年あたりからその結果が報告され始めたが,この結果はますます強められている。現在,銀河やそれより大きな規模での銀河の分布を説明するための理論的モデルは,この非常に一様な宇宙から現在の非一様な構造をつくるという大変な難問を解決しなければならず,理論家を四苦八苦させている。一方観測的には,より遠方の銀河を見るということはより過去の銀河を見るということを意味するので,遠方の銀河を調べれば,いつ,どのような状態で銀河や銀河分布の大きな非一様性ができたのか,といったことを明らかにしていけるのだが,まだ,このような深宇宙の探査は十分には行われていない。

さて以上は,宇宙のどちらかと言えば静的な姿であるが,動的な姿も見ておきたい。先程,宇宙黒体輻射は一様等方的であると述べたが,実は,ほんの少し双極的な非等方性が見られるのである。この原因はしかし,我々が宇宙黒体輻射に対して運動をしているからであると考えられている。宇宙のなかでの我々の運動は,我々のまわりの銀河を沢山観測してその運動の様子を解析することからもわかる。これらの研究の結果,我々の銀河は,おとめ座銀河団の方向に,約200kms-1で落ちこんでおり,そのおとめ座銀河団そのものも我々を含む超銀河団全体として,うみへび・ケンタウルス座超銀河団の方向に向かって動いていることが分かってきたのである。さらに驚くべき事に,我々から約1.5億光年位離れた所に位置するこのうみへび・ケンタウルス座超銀河団までもが,やはり同じ方向に動いていることが分かってきたのである。図2~4で見られるように銀河の分布は網の目状であり,沢山の銀河が集まっているとそれは強い重力源となるので,そちらの方向に銀河が落ちていく。従って,銀河の流動があってもある意味では不思議ではないわけだが,このような大流動をひきおこすためには,極めて大きな重力源が比較的近く(2億光年位の距離)に必要であると考えられており,この想定される巨大重力源をグレートアトラクター(直訳すると巨大重力源とか巨大引力源だが,なぜかカタカナを使うのがはやりである)と呼んでいる。しかし,想定される場所にはまだこのような物質の大きな集中が発見されておらず,これが大きな謎となっている。この方向は天の川の中にあるので,単に天の川に隠されているために見つかっていないという可能性もあるが,それにしてもこんなに巨大な重力源となりうるほどの銀河が隠れているのか疑問視する人もいる。また,非常にエキセントリックな存在(宇宙ひも)を考える人もいるし,あるいは,グレートアトラクターの存在は観測の間違った解釈から出てきたもので,そんなものは存在しなくてもよいと主張する人もいる,といった具合で現在大変ホットな話題となっている。

ここで紹介した宇宙の大規模構造についての研究は,残念ながら(?)ほとんどがアメリカで行われたものである。日本ではこういった研究を観測的に進めていくのは大変困難な状況にあった。しかし,現在,日本の天文学研究者は,口径約8mという世界最大級の光赤外線用の望遠鏡を天体観測に最適の場所とされているハワイのマウナケア山に設置するという計画を推進しており,1990年代末にはこの望遠鏡が稼動し始める予定である。21世紀には,日本の研究者も宇宙のもっと奥深い部分を観測し,銀河や宇宙の大規模構造がどのようにしてできたのかということを詳しく研究していくことができるようになるだろう。

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太田 耕司
Kouji Oota
  • 京都大学理学研究科博士課程修了
  • 理学博士
  • 銀河物理学専攻
  • 元京都コンピュータ学院講師
  • 現在国立天文台研究員

上記の肩書・経歴等はアキューム3号発刊当時のものです。