トップ » バックナンバー » Vol.14 » 日韓友情年の推進に向けて

Accumu Vol.14

日韓友情年の推進に向けて

1. はじめに

2005年は,日韓国交正常化40周年に当たり,「日韓友情年」としてさらに交流を進めることがうたわれている。実際,日本は韓流ブームであり,韓国では“SMAP”や“あゆ”が若者の人気を集めるなど,民間レベルでは熱い交流が続いている。一方で,竹島(韓国では「ドクト」)の領有権や首相の靖国神社参拝などをめぐり,厳しい政治外交状況も出現している。このような環境のもとで,京都情報大学院大学(KCGI)は,日韓の情報通信(ICT)分野における学術研究レベルでの交流推進を目的として,いくつかの活動を進めてきた。日本と韓国は,ブロードバンド普及率において世界1,2の地位を占めており,ユビキタス社会の実現に向け,国を挙げた取り組みが進められている。しかし,このような状況は,不正アクセス,なりすまし,個人情報漏洩など,情報セキュリティ上のさまざまなリスクをはらんでもいる。本報告では健全なユビキタス社会の実現に向け,KCGIが,これまで日韓共同で取り組んできた活動を紹介する。

2. 日韓共同セミナー

写真1 日韓共同セミナー開催
写真1 日韓共同セミナー開催

KCGIは,2004年11月に,韓国の高麗大学校情報保護大学院と情報セキュリティ分野における学術交流提携を締結して交流を深めてきた(囲み記事参照)。その交流の一環として,2005年8月24日から25日の間,韓国済州島にて,日韓共同セミナー「日韓におけるユビキタス社会でのICT Application活用について―情報セキュリティを中心に―」を開催した(写真1)。このセミナーでは,両校の教授のほか,韓国のIT分野の政府機関(韓国電子通信研究院:ETRI,韓国情報保護振興院:KISA)や,日本の民間企業(株式会社三菱総合研究所,株式会社NTTデータ経営研究所),研究機関などからの参加者による発表がなされた。また,韓国側の発表者として,アメリカの大学(Columbia大学,Maryland大学)より2名の教授が招待講演を行った(図1)。  

図1 日韓共同セミナーにおける発表(8/24-25)
日本側 韓国側
日韓情報セキュリティ共同研究のための組織作り戦略
高弘昇(京都情報大学院大学)
① 招待講演 Light-Weight Cryptography
Virgil DGligor(Univof Maryland)
三菱総合研究所における情報セキュリティの研究動向
村瀬一郎(株式会社三菱総合研究所)
② 招待講演 Kleptographic Attacks:a survey
Moti Yung(RSA Labs/Columbia University)
SCMを成功に導く10のポイント
神田正美(株式会社三井物産戦略研究所)
Security Issues on u-Korea
Yoojae Won(KISA)
Security Business Forefront
-with a central focus on Airport Security in Japan-
三笠武則(株式会社NTTデータ経営研究所)
Security Issues & Technologies in RFID Systems
Kyo-il Chung(ETRI)
PkQ暗号の応用とその性能評価について
内藤昭三(京都情報大学院大学)
A New Blockcipher for National Defense in the Ubiquitous Age
Jongin Lim(Graduate School of Information Security,Korea University)

セミナー冒頭,KCGIの高弘昇教授により日韓セキュリティフォーラムの提案に関する講演があり,その後,ユビキタス社会を実現する上で解決しなければならない技術的問題点が議論された。現在,情報通信技術の応用が拡大される中で,不正利用に対する対策が重要になっており,日本においても韓国においても,国を挙げて多面的な検討が行われている旨の報告があった。例えば韓国では,匿名性を利用した不正を防ぐために,匿名の使用を禁止し,ウェブ上のメッセージを誰が書いたか確認が取れるようにする,といったことが検討されている。ただし,プライバシー保護など匿名性のメリットもあり,それらの得失を両立させる技術に関して議論が行われた。

ネットワーク上での盗聴,改竄,なりすましなどのセキュリティリスクに対処するために暗号化技術が使われるが,ユビキタス時代を迎えて,新しい技術が求められている。例えばRFIDタグの場合,簡単な回路と計算の負荷の小さい技術が求められる。今回のセミナーでは,ユビキタス環境の資源制約が厳しい状況下で求められる軽量の暗号化技術の開発や不正ソフトウェア対策に関する講演が,招待講演も含め4件行われた。KCGIの内藤昭三教授も,自身のアイデアによる軽量の公開鍵暗号方式の応用と性能評価について講演した。

さらに具体的なアプリケーションの分野から,RFIDタグについてのセキュリティ確保の問題,情報システムが重要な働きをするサプライチェーンマネジメント(SCM)の効果的導入法,情報システムが持っている一般的な脆弱性とその社会的影響など,多くの話題が取り上げられた。具体例を一つ挙げると,現在,成田空港で実験的に進められているe‐エアポート構想が紹介された。本実験では,e‐パスポートに個人情報が電子的に書き込まれ,チェックインが自動化される(e‐チェックイン)。乗客の荷物はe‐タグで認識され,家から目的地の空港まで,確実に届けられる。空港内の案内はモバイル端末でe‐ナビゲーションが実行される。本発表では,乗客へのサービス向上と安全性の確保の両立を解決するソリューション技術が議論された。

3.ETRIとの共同研究を開始

写真2 ETRIとの共同研究協定の締結
写真2 ETRIとの共同研究協定の締結

KCGIは,8月24日,韓国・済州島にあるラマダプラザホテルで,韓国電子通信研究院(ETRI)と,ユビキタス情報セキュリティ分野における共同研究及び開発を行う目的で,学術交流提携のMOUを締結した(写真2)。MOUの主な内容は,(1) ユビキタス情報セキュリティ技術の共同研究及び技術開発,(2) 技術開発共同セミナー及びワークショップの開催,(3) テストベッドの共同活用,(4) 研究者の交流である。「韓国電子通信研究院:ETRI(Electronics and Telecommunications Research Institute)」は,1976年設立の韓国最大の非営利の政府系情報通信研究機関で,現在は,韓国科学技術省(Ministry of Science and Technology)に所属し,セキュリティ技術のみならず,IPv4/IPv6変換技術,DMB(Digital Multimedia Broadcasting)技術など情報通信に関する広範な研究開発を行っている(http://www.etri.re.kr/)。また,ETRI Journalは,AT&T, BT, IBMに続く世界4番目にSCI(Science Citation Index)に登録されるほど情報通信分野では高い知名度を獲得している。今後,ETRIとは,健全なユビキタス社会の実現に向け,共同で情報セキュリティ技術の開発を進める予定である。

4. KISAから諮問委員に任命される

写真3 KISAでの諮問委員任命状授与式
写真3 KISAでの諮問委員任命状授与式

KCGIの高弘昇教授,内藤昭三教授の2名が,8月29日,韓国情報保護振興院(KISA,http://www.kisa.or.kr/)において,李院長(囲み記事参照)より, 国際共同研究など日本地域での国際協力事業のための日本現地諮問委員に任命された(写真3)。KISAが海外の情報セキュリティ専門家を諮問委員に任命するのは初めてである。今後も,アメリカ,オーストラリア,インドなどから海外専門家の任命を継続的に推進していくことを計画している。諮問委員とは,KISAが実施する情報セキュリティに関する政策等に関して意見を求められた場合,専門家として自らの意見を提出する役割を担う。 2005年11月にソウルで開催されるKISAと独立行政法人情報処理推進機構(IPA)との情報セキュリティに関する第3回定期会合に諮問委員として出席するなど,さまざまな諮問活動が予定されている。高,内藤の両教授は,KISAのグローバル諮問委員会の最初の諮問委員として,KISAにおける電子署名,認証,暗号化に関する共同研究と情報セキュリティ教育活動に協力していく。

5. おわりに

日本と韓国は,まさに一衣帯水。両国の独自性を認めながらも,ICT技術開発の側面で友好関係を構築していくことで,アジア地域発展のコアを形成できる。KCGIは,高麗大学校情報保護大学院や韓国政府機関との連携を深め,国内におけるICT分野のリーダーを目指す。さらに,このコアを発展させ,ベトナム,タイ,中国などアジア各国とのICT分野の研究協力ネットワークに拡大し,アジア地域の健全なユビキタス社会実現に寄与していきたいと考えている。


Topics 1 京都情報大学院大学が高麗大学校情報保護大学院と学術交流協定を調印

京都情報大学院大学は,2004年11月,情報セキュリティに関する研究開発およびエキスパート養成において韓国No.1 の実績を有する高麗大学校情報保護大学院と学術交流協定を締結した。両校は,日韓それぞれのIT分野のリーダーとして,健全なユビキタス社会の実現に向け,情報セキュリティ技術の共同研究や共同セミナーを開催するなど,アジアにおけるIT分野の研究・教育の発展に貢献していくことを確認した。調印のため来日された高麗大学校情報保護大学院の林鐘仁(インチョンイン)院長は,京都コンピュータ学院(KCG)における特別講演「Monitoring in the Workplace(職場におけるモニタリング)」において,韓国や米国の職場環境における情報保護対策の現状や動向を紹介された。


高麗大学校情報保護大学院との学術交流協定調印
高麗大学校情報保護大学院との学術交流協定調印
高麗大学校情報保護大学院との学術交流協定調印書
高麗大学校情報保護大学院との学術交流協定調印書


Topics 2 韓国情報保護振興院との間で情報セキュリティ分野における協力関係を構築

KCGIは,2005年5月,韓国情報保護振興院(KISA)との間で,セキュリティ分野における協力関係を構築していくことで合意し,記者発表を行った。

来日されたKISAの李弘燮(リホンソプ)院長は,KCGにおいて特別講演「ユビキタス社会の光と影~韓国における情報セキュリティ政策と取り組み~」を行った。韓国は,ブロードバンド普及世界第一位という光の部分が注目される一方で,匿名性を悪用した詐欺行為(phishing)やプライバシー侵害などのセキュリティ上の問題も生じている現状が報告された。KISAは,国内における情報セキュリティの政策を立案,推進する立場にあり,健全なユビキタス社会の実現に向け,どのような取り組みを行っているかを説明された。


韓国情報保護振興院との協力関係構築(記者発表)
韓国情報保護振興院との協力関係構築(記者発表)
韓国情報保護振興院 李弘燮(リホンソプ)院長
韓国情報保護振興院 李弘燮(リホンソプ)院長