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Accumu Vol.14

宇宙一の力持ち-グレートアトラクター

岐阜大学 教授 若松 謙一

「宇宙では,銀河同士のけんかがありますか」。これは,私が講演会で聴衆の皆さんによくする質問です。用意する選択肢は,①「宇宙は調和が取れているから,ない」,②「宇宙でも,つい,たまにやってしまう」,③「宇宙でも,しょっちゅうやっている」です。さて,皆さんの答えは如何でしょうか。多くの聴衆の皆さんは ②を選択します。そこで私が,「正解は③です」と言いますと,どっと笑いが沸き起こります。

1. 宇宙は人間世界の縮図?

図1 衝突している二つの銀河Arp240(NGC5257+58)。潮汐力という口や手を出して激しい「けんか」をしている姿に注目。
"図1 衝突している二つの銀河Arp240(NGC5257+58)。
潮汐力という口や手を出して激しい「けんか」をしている姿に注目。

人間世界での「けんか」とは,隣の人につい口や手を出してしまい,その人との間に好ましからざる関係が生じ,時には修復しがたい傷が残ってしまう,ということかと思います。宇宙での「けんか」の意味については,図1をご覧ください。

これは,普段は互いに遠く離れてひとり宇宙空間にぽつんと静かに漂っていた銀河が,あるとき他の銀河に偶然接近して,つい「潮汐力」という手が出てしまった姿なのです。相手の銀河の星ぼしを引っ剥がし,自分の銀河に引きずり込もうとしている姿,まさに銀河同士が啖呵を切って喧嘩している真っ最中の姿なのです。このような銀河同士の喧嘩は時にはもっと激しく起こります。相手の銀河を木っ端微塵に破壊し尽くし,宇宙空間へ雲散霧消させてしまったり,時には,完全に自分の配下に治めたり,と。

どうして,こんなことが分かったと思いますか? スーパーコンピュータの中で二つの銀河を互いに接近させ,数百万個の星ぼしの軌道をシミュレーションで追いかけます。一方,巨大な望遠鏡で,喧嘩している銀河同士の間にかかっている橋や尻尾の部分について,星やガスの運動速度をドップラー効果を利用して測定します。そして,その速度がシミュレーションの結果とよく一致することを確かめ,このような考え方が正しいことを証明するのです。まさに,スーパーコンピュータ様々です。ちなみに,銀河同士の喧嘩している時間は,おおよそ数億年,渦巻き銀河が1-2回転する程度の時間です。

広大な宇宙空間で,銀河同士は共食い,分裂,合体を繰り返しているのです。一つの銀河は,誕生以来130億年の間に平均10回程度このような凄惨な戦いをやってきたと推定されています。今見えている銀河はこれらの戦いを生き延びてきたいわば“つわものども”です。でも,彼らはいつ,逆にやり返されるか分からない・・・。まさに恐怖の宇宙空間,これが現代天文学が描く宇宙でのバトルなのです。

こんな宇宙像が1980年代終わりに確立したのです。まさに,「宇宙は人間世界の縮図」です。いや,そうではなく,「人間世界こそ,宇宙の縮図」なのです。宇宙がこのような野蛮な状態にある以上,そこから生まれた地上の生命,なかんずく人類はそれ以上に野蛮であるのはしごく当然なのかも知れません。いま,企業間の乗っ取り,国同士の喧嘩,・・・。「浜の真砂は尽きるとも,世に喧嘩のタネは尽きまじ」と,達観するしかありません。漱石の「草枕」の世界に逃げ込みたい心境になります。

2. 宇宙のメガロポリスと過疎の村

図2 空の一角を約130度の広がりにわたって銀河の奥行き方向(わが銀河系からの距離)の分布を調べた図。一つ一つの点は一個一個の銀河を表している(ハーバード大学による観測)。
図2 空の一角を約130度の広がりにわたって銀河の奥行き方向(わが銀河系からの距離)の分布を調べた図。
一つ一つの点は一個一個の銀河を表している
(ハーバード大学による観測)。

人間世界には,東京,京都,ニューヨークといった数百万人が密集する巨大都市群,メガロポリスがある一方,人口数百人の超過疎の村,いや千数百km四方人っ子一人住んでいない砂漠の地まで,さまざまな様相を呈しております。図2をご覧ください。


図3 ハッブル宇宙望遠鏡で撮られた遠方の銀河団 Abell 2218。多数の銀河が密集して宇宙のメガロポリスを形成している。同心円状に広がるアークは,銀河団背後にあるより遠方の銀河の光が重力レンズ効果により結像したもので,アインシュタインの一般相対性理論から予言されていたもの。
図3 ハッブル宇宙望遠鏡で撮られた遠方の銀河団 Abell 2218。
多数の銀河が密集して宇宙のメガロポリスを形成している。
同心円状に広がるアークは,銀河団背後にあるより遠方の銀河の光が重力レンズ効果により結像したもので,
アインシュタインの一般相対性理論から予言されていたもの。

これは,空の一角を約130度の広がりにわたって10度の幅で,銀河の分布を奥行き方向(わが銀河系からの距離)について調べたものです。一つ一つの点は一個の銀河を表しています。この図の上で私達の銀河系は扇の要の位置に居ることになります。この図によると,宇宙空間での銀河の分布は一様ではなく,巨大なメガロポリスのように数千個の銀河が一箇所に密集している空間(銀河団:cluster of galaxies:図3),過疎の村のように数十個の銀河が散在している所(銀河群: group of galaxies)がある一方で,銀河が一個もないボイド(void)と呼ばれる砂漠のような空間もあることがお分かり頂けますでしょうか。

銀河団がまた幾つか集まってより巨大な集団を形成していることが1990年代の初めに観測から分かってきて,超銀河団(super-cluster of galaxies)と名付けられました。では,この超銀河団がまたまた集まって「超々銀河団」を形成しているのでしょうか。これはどなたも気になる質問です。これに答えるべく早速,観測が開始され,現在でも続いています。Anglo-Australian天文台での2dFという観測結果によると,そのような天体は存在していないようです。「超銀河団」こそが宇宙最大の天体であり,その大きさは直径約2億光年,数十万個の銀河からなる巨大な集団で,その重さは太陽1016個分なのです。

図4 宇宙における銀河形成のシミュレーション。濃淡は銀河・銀河団の分布の様子を表している。実際に観測される分布図(図2)によく似ている(マックスプランク研究所のスーパー・コンピュータによる)。
図4 宇宙における銀河形成のシミュレーション。
濃淡は銀河・銀河団の分布の様子を表している
。実際に観測される分布図(図2)によく似ている
(マックスプランク研究所のスーパー・コンピュータによる)。

このような超銀河団が数十個並んだ130億光年先には「宇宙の地平線」がある,ということになります。そして超銀河団は互いにウオールと呼ばれる銀河のひも状の連なりで繋がれており(図2でヘラクレス座超銀河団付近のウオールはGreat Wall「万里の長城」と名付けられました),超銀河団間の隙間は銀河がない巨大な砂漠のような茫漠とした虚無の空間,ボイドが広がっている。こんな姿が21世紀初頭の観測天文学者が描き出した宇宙の姿なのです。皆さんのお気に召すでしょうか。図4は,膨張宇宙における銀河形成のコンピュータ・シミュレーションの結果です。濃淡の様子やウオール構造などが,観測結果(図2)をよく再現していますね。

3. 宇宙膨張は等方的か?

1929年,アメリカのウイルソン山天文台のE. Hubble は,当時世界最大の2.5mフッカー望遠鏡を用いてわが銀河系のすぐ近くの銀河数十個について,その距離rと我々から遠ざかる速度Vを測定して,いわゆるハッブルの法則

V = H×r

を発見しました。この発見は,アインシュタインの一般相対性理論に基づくA. Friedmann の膨張宇宙モデルとぴったり一致したことより,わが宇宙は時間的に変化しない「静止宇宙」ではなく,時間とともに宇宙が広がっていく「膨張宇宙」であることが分かり,20世紀天文学の最大の発見となりました。このことは多くの皆さんが既にご承知のことと思います。

上の式で,比例定数Hは現在の宇宙の膨張スピードを表しており,その逆数1/Hは,宇宙が誕生して以来,現在の大きさになるまでの時間,すなわち「宇宙の年齢」を表しています。大変重要な数値で,ハッブル定数と呼ばれています。1929年当時,ハッブルはH= 530km/s/Mpcという値を得ました。これは宇宙の年齢が13億年であることを意味します。当時既に地球の年齢が,放射性同位元素の測定から30億年程度と推定されており,宇宙の年齢の方が地球の年齢より若いという奇妙な逆転現象が生じてしまったのです。この逆転の矛盾は,銀河の距離を決める手続きにミスがあったことが1952年 W. Baadeによって指摘され,一応解消されました。しかし,その後もHの値をめぐって100km/s/Mpc(宇宙年齢は約70億年)を主張するグループと,50km/s/Mpc(同140億年)を主張するグループとが,1980年代になっても激しく対立していました。

この二つのグループの喧嘩騒動の中で,ことは意外な方向に展開していったのです。M. Aaronsonらは,1982年に宇宙の膨張スピードは方向によって少し異なっている,ある方向では少し速く,反対方向では少し遅い,というのです。宇宙は,等方的に膨張しているのではなく,方向によって異なっている,と主張し始めたのです。ちなみに,宇宙を相対性理論で考察するときの基本原理は,「宇宙はどこも同じように一様でかつ等方的である」とする「宇宙原理(Cosmological Principle)」です。

4. 宇宙背景放射は等方的か?

図5 宇宙背景放射の電波スペクトル。観測結果がBig Bang宇宙モデルから予測される結果(実線)と極めてよく一致している(NASA)。
図5 宇宙背景放射の電波スペクトル。
観測結果がBig Bang宇宙モデルから予測される結果(実線)と
極めてよく一致している(NASA)。

「宇宙が現在も膨張しているというなら,時間を逆にたどれば,昔の宇宙はもっと小さかったはずだ。そして時間をどんどんさかのぼっていくと,ついに宇宙は一点に収縮してしまう。この時こそが宇宙の始まりだ」。このような宇宙創生(開闢)モデルがロシアの物理学者G.Gamovによって提案され(1948年),今では「Big Bang宇宙モデル」と呼ばれています。このモデルによると,超高温で誕生した宇宙は,約30万年後には膨張で1万度にまで冷えてしまい,その時物質から発せられた強い光はその後130億年の間宇宙空間をさまよい続け,現在ではマイクロ波の電波として地上に降り注いでいるはずだ,とガモフは予言したのです。その電波が偶然のことから1965年にA. PenziasとR.Wilsonによって発見され,ノーベル物理学賞を受賞したことは皆さんもご存知でしょう。その電波スペクトルは,ほぼガモフの予言どおり,絶対温度T=2.735Kのプランク曲線に見事に一致していました(図5)。ガモフ理論の完全なる勝利です。

図6 地球(銀河系)に降り注ぐ宇宙背景放射の電波強度の方向分布。空の一方向からの強度が反対方向に較べ0.4%強くなっている。
図6 地球(銀河系)に降り注ぐ宇宙背景放射の電波強度の方向分布。
空の一方向からの強度が反対方向に較べ0.4%強くなっている。

この電波は宇宙のありとあらゆる方向から地球,銀河系に降り注いでいるので,その電波強度はどの方向も一様,すなわち等方的なはずです。この電波の発見の後,NASAは多数の人工衛星を打ち上げ,この電波強度を精密に測定し始めました。ところがある方向の電波強度はその反対方向の強度に較べ,0.4%ほど強くなっていることが1979年に判明したのです(図6)。しかも,その強くなっている方向は宇宙の膨張スピードが遅い方向とおおよそ一致する,というのです。

宇宙のこの二種類の異方性をうまく説明したのが現アメリカ国立天文台長のJ.Mouldらです。彼らによれば,それは,わが銀河系が約600km/sという猛烈なスピードで“うみへび座” の方向に動いているからだ,というのです。雨がしとしと降っている中で,じっと静止していると,おなか側も背中側も同じようにぬれてしまう。しかし,歩き始めると,前側の方が後ろ側より強くぬれてしまう。また,走っている列車から同じ方向に向かって走る車を見れば,そのスピードは少し遅く見え,反対方向に走り去る車のスピードはより速く見える。これと同じ現象が宇宙でも起こっていて,わが銀河系が600km/sでうみへび座の方向へ動いているからだ,というのです。1986年のことです。

Mouldらによれば,我々周辺の空間の運動状態は図7のとおりです。まず,太陽が銀河系の中心の周りを250km/sの速度で回転運動をしている。次に,わが銀河系はアンドロメダ星雲や,マゼラン星雲とともに局部銀河群(Local Group)を形成していて,それら全体がおとめ座銀河団に引っ張られ,333km/sのスピードで落ち込んでいる。そのおとめ座銀河団もまたまた,「 うみへび-ケンタウルス座超銀河団」によって引っ張られている,と。

図7 銀河系とその周辺の銀河団の運動の様子
図7 銀河系とその周辺の銀河団の運動の様子

ガリレオは,「地球は静止しているのではなく,太陽の周りを動いている」と主張してローマ法王庁により有罪に処せられました(1633年)。しかし,その太陽も静止しているのではなく,銀河系の回りを250km/s のスピードで円運動していることが1927年に分かったのです。そして今,わが銀河系もまた600km/sで動いている,というのです。まさに二度あることは三度あるのですね。

5. 宇宙一の力持ち,グレート・アトラクター

図8 銀河系中心方向の天の川。多数の暗黒星雲が漂っていて,GAの検出を妨げている。へびつかい座銀河団は,天の川から少し離れた所に位置している。
図8 銀河系中心方向の天の川。
多数の暗黒星雲が漂っていて,GAの検出を妨げている。
へびつかい座銀河団は,天の川から少し離れた所に位置している。

実は,どうも三度では終わらない気配なのです。1987年になって,Cambridge大学のD.Lynden-Bell教授らは,またまた変なことを言い出しました。何とこの図7全体の空間,直径約1億光年が銀経307度,銀緯+9度の方向へ200km/sの速度で動いている,と主張し始めたのです。そして,この空間全体を強い力で引っ張っている巨大な天体を“Great Attractor(GA)” と名付けました。宇宙一の力持ちです。

この説に対して,世界の多くの研究グループが望遠鏡をその方向に向けてGAを見てみようと思い立ちました。でも,すぐにあきらめてしまいました。この方向は,「天の川」の流れの真っ只中方向に位置していて,そこには多数の暗黒星雲がうようよ漂っており,その方向の宇宙の様子を見ることができなかったからなのです(図8)。そこは銀河が見えていない領域ということで昔から“Zone of Avoidance”と名付けられていた空だったのです。

しかし,オランダのR.Kraan-Kortwegらはあきらめませんでした。Abell3627という銀河団こそがGAに違いない,と主張し始めました(1996年)。この銀河団は天の川の流れからほんの少し離れた所に位置しており,かすかに漏れてきた光に気付いて発見にこぎつけたのです。はたして,この銀河団こそがわが銀河系,おとめ座銀河団,それにうみへび-ケンタウルス座超銀河団を引っ張っている宇宙一の力持ちなのでしょうか?

6. グレート・アトラクターはどこに?

天の川の中でのGA探しは,光の望遠鏡ではどうにもならないので,暗黒星雲に邪魔されない電波望遠鏡を使って進めようとの試みがオーストラリアのParkes 電波天文台で始まりました。2000年までに南半球の天の川領域全体にわたって銀河捜索がなされました。 1000個以上の多数の渦巻き銀河が新たに発見されましたが,どれもGA候補には少し貧弱な銀河,銀河団ばっかりでした。この捜索の中で,もしやアンドロメダ星雲よりももっとわが銀河系に近い銀河が発見されるかもしれない,との期待も膨らみましたが,残念ながら,そのような近距離の銀河も発見されませんでした。

隠れているGAを電波望遠鏡で探そうとのグループとは別に,X線望遠鏡を用いて探そうとのグループも現れました。実はこの方法の方がGA探しにはより適切なのです。というのは,一般に力持ちの巨大な銀河団は,その強い重力を利用して自分自身の回りに数億度にも達する超高温のガスを大量に閉じ込めて,非常に強いX線源となっているからなのです。従って,GAはX線望遠鏡で探せばきっと見つかるであろう,と期待が高まりました。実際,ハワイ大学のB.Tullyらのグループは,天の川の中に埋もれていた新しいX線源を多数発見しました(2002年)。 Abell3627銀河団からも強いX線が放出されていることが確認され,また,その周辺にも幾つかのX線源が発見されるなど,現在も観測が続いています(京都大学の永山研究員ら)。宇宙一の力持ちが遂に見つかったか,と期待も高まりました。でも,2005年4月にオーストラリアで開かれた研究会では,かなり多くの人々が否定的であったのです。 Abell3627を中心とする幾つかの銀河団は,GA候補としてはまだ少し軽すぎる,というのです。

7. へびつかい座超銀河団の役割

図9 へびつかい座銀河団方向の約4000個の銀河の後退速度のヒストグラム。 10年間にわたって観測をしたところ,V=9000km/sのところに大きな集団が形成されており,巨大な超銀河団であることが判明した。
図9 へびつかい座銀河団方向の約4000個の銀河の後退速度のヒストグラム。
10年間にわたって観測をしたところ,V=9000km/sのところに大きな集団が形成されており,
巨大な超銀河団であることが判明した。

私は,15年程前からさそり座の一等星アンタレスのすぐそばにある「へびつかい座銀河団」をこつこつと,十年一日のごとく観測して参りました(図8)。これは銀河系中心方向の天の川の中にあって,暗黒星雲が一層うようよと漂っている天域です。そこは誰も観測したがらない天域でした。幸い,Anglo-Australian天文台の協力を得て,これまでに約4000個の銀河の赤方偏移を測定し,それが「へびつかい座超銀河団」を形成していることを2004年に突き止めました(図9)。

2004年になってこの超銀河団にも,少し日があたり始めて来たようです。イギリスのダーラム大学のJ.Lucyらは,GAはAbell3267のような近距離の銀河団ではなく,もっと遠い所にある超銀河団ではないか,と主張し始めたのです。幾つもの銀河団が密集しているShapley Concentrationと呼ばれる距離6億光年にある天体がGAの有力な候補である,というのです。もしこの仮説が正しいなら,Shapley Concentrationの近くに位置しているわが「へびつかい座超銀河団」もGAの一角を担う可能性が十分にあり,その規模の解明が待たれるところなのです。

そこで,2005年7月,アフリカ,ケープタウンの北東にある南アフリカ天文台(旧王立喜望峰天文台)に行き,赤外線でこの「へびつかい座超銀河団」の規模を測定すべく観測して来ました。この銀河団はペルセウス座銀河団に次いで全天で2番目に明るいX線銀河団です。光では霞んで見えない銀河を赤外線の観測では次々と見つけ出すことができました。これから2年間かけて,コンピュータの画像解析ソフトをふんだんに活用して,銀河の分布の解析に取りくむ予定です。

GAはわが銀河系を含む1億光年にも及ぶ広大な宇宙空間を巨大な力で引っ張り続けている天体です。その天体の発見がなぜ天文学的に重要なのでしょうか。宇宙膨張と共に動く座標系に対し600km/sにも達する銀河系のこの運動は,銀河系が形成されて以来約130億年にわたって,銀河系周辺の物質分布の非等方性から生じた力のアンバランスの結果なのです。従って,この運動の中にこそ,宇宙誕生以来の物質分布のアンバランス情報が閉じ込められているのです。

これを解明することは,宇宙全体の物質の密度パラメータΩmの値や,重力によってしかとらえることのできない,しかし宇宙の命運をつかさどっている「暗黒物質」の割合を表すバイアス・パラメータの値を決める重要な観測手段となっているのです。このGA問題を解決するには,「わが銀河系を取り囲む全方向の物質分布の詳細な情報」が必要です。南北両半球の広大な空にわたって。

宇宙の中で銀河同士はしょっちゅう喧嘩しています。実は銀河団同士もまた,しょっちゅう喧嘩をしており,分裂,合体,共食いが繰り返されています。「超銀河団」とはその結果の産物なのです。今の世の中,何でも合体が叫ばれています。宇宙での合体劇をしばらく見守っていて下さい。この話の結末はあと10年ほど待たなくてはならないかも知れません。

本稿の執筆に際し,京都コンピュータ学院の作花 一志氏に大変お世話になりました。ここに厚く御礼申し上げます。

この著者の他の記事を読む
若松 謙一
Ken-ichi Wakamatsu
  • 京都大学大学院理学研究科宇宙物理学専攻修了
  • 京都大学理学博士
  • 研究分野は銀河・銀河団の観測的研究(へびつかい座超銀河団の発見等)
  • 国際天文学連合(IAU)第28委員会(銀河部門)組織委員,国立天文台運営協議委員,日本天文学会副理事長などを歴任
  • 現在,岐阜大学工学部人間情報システム工学科教授

上記の肩書・経歴等はアキューム14号発刊当時のものです。