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Accumu Vol.3

知的財産権とコンピュータプログラム

仙元 隆一郎

コンピュータ時代の到来とプログラムの商品化

1950年代の中頃,関西の法律学者の集まりで,「ソフトウェアて何か知ってるか」と聞いた者があった。多くの者がニットウェアからの連想であろうか,衣料品関係の言葉だろうと考え,正確にコンピュータの利用技術と答えたものは僅かであった。

それから40年,コンピュータは急速に進化し,我々の生活の中に適応してきた。工場ではロボットが働いて24時間操業の無人工場が出現している。会社ではオフィス・コンピュータが働き,ワードプロセッサーとともに,オフィスの主役の地位を占めるに至っている。カメラや電子レンジに組み込まれたマイコンは家庭内にはびこり,子供たちはテレビ・ゲームに打ち興じる。ファクトリィ・オートメーション(FA)に続く,オフィス・オートメーション(OA)革命により,いまや日本は本格的なコンピュータ時代に入った。コンピュータは現代社会を支える土台であり,もはやコンピュータ抜きでは,現代の経済のみならず,社会そのものを考えることができないほど重要な位置を占めるに至っている。

このような情勢の中で,コンピュータとソフトウェアの開発をめぐり日米間に熾烈な開発競争が展開されていることは周知のとおりである。すでに旧聞に属するが,1982年6月にアメリカで起こったIBM産業スパイ事件は,日立製作所と三菱電機の社員が,IBMの最新磁気ディスク記憶装置等の情報を得るため,コンサルタントを装ったFBIの捜査官に近づき,そのワナにはまったものであり,コンピュータの開発をめぐる競争の激しさを我々に垣間見せた。この事件で,IBMは日立を相手に,損害賠償とIBM機密情報を使った電算機の設計,製造,販売の差し止めを求める民事訴訟をカリフォルニア州北部連邦地裁に起こしたが,1983年10月7日に両社の間で和解が成立した。しかし,この和解には,IBMと類似した日立の・フトウェアについて,IBMに莫大な使用料を支払うことを骨子とする,秘密のソフト使用協定の存在することが明らかにされ,ソフトウェアの法的保護が,国際的問題として改めて日本人の前にクローズアップされた。

現在のコンピュータは,数値計算の機械であり,人間の命令したとおり忠実に計算する。ソフトウェアとは,コンピュータの動かし方(命令)であり,優れたソフトウェアであればあるほど,コンピュータは迅速に多機能の計算をすることになる。

コンピュータが開発された当初は,ソフトウェアは機械を提供するサービスとして,ハード(機械)に従属していた。しかし,ソフトウェアはやがて独立の価値あるものとして,取引の対象となってきた。1970年にIBMが,コンピュータのハードウェアとソフトウェアを,各々別個に販売するいわゆるアンバンドリング政策をとって以来,ソフトウェアは独立の商品としての位置を確立した。

ソフトウェアの危機

この価値分離政策の浸透によって,「ソフトウェア危機」と呼ばれる問題が指摘されてきている。現在のコンピュータでは,情報処理コストに占めるソフトウェアの割合が高くなり,やがてコンピュータ利用の大きな制約条件になるのではないかとの危惧である。1950年代には,コストの大部分はハードウェアにかかり,ソフト経費は20%以下であったものが,85年にはソフト経費が80%を超えたという。しかも,ソフトウェア開発費は20%程度に止まっているにもかかわらず,ソフトウェア保守費(1)が大幅に増大しているのである。この事実は単に経費の増大が問題であるのみならず,膨張しつづけるソフトウェアの数(通産省の調査によると昭和55年時点で,1社当り保有数は平均1065本)を全国にいるソフト要員(1社当たり平均25人)で質を落とすことなく維持することは困難であり,「ソフトウェア危機」は,物的・人的両面から近い将来顕在化すると指摘されていた。

ソフトウェア危機を避けるため考えられるのは,まず第一に,ソフトウェア(プログラムをはじめ,言語,仕様等)の汎用化,標準化を図ることである。これによって大幅なコストダウンが期待できるからである。パソコンの分野では,すでに100%近いソフトウェアがパッケージ(主要な応用のため書かれた汎用プログラムのこと)化され,書店などで売られている。汎用コンピュータプログラム(2)にもSPSSなどの汎用統計プログラムがあるが,パッケージ化はまだ4%にすぎない。第2に,コンピュータそのものを改良して,簡単な指示を与えれば,コンピュータが自動的にプログラムを作るようにすればいい。ノイマン型をベースに開発が進められている,第5世代コンピュータは,まさにこの目的のため作られようとしているのであり,推論機能,知識ベース機能,知的インターフェイスを総合し,プログラムを自ら作り出す機能を持つ。そして,次世代コンピュータの推論用の言葉である「リスプ」や「プロログ」,「インターリスプD」がすでに開発されている。しかし,第5世代コンピュータの開発は,1991年度で,一応研究が完了する予定とはいえ,実用段階には,いまだしの状況にある。

プログラムの法的保護の必要性

先にも述べたように,ソフトウェアはコンピュータの利用技術ないしは計算方法である。したがって,その中心はプログラムであるが,そのほかにも,システム設計書,フローチャート,仕様書などもソフトウェアに含まれる。ソフトウェアの法的保護の問題を論ずるについては,このすべてを対象にすべきであるが,今回は特に現在問題となっているプログラムの保護に限定して論ずることをお断りしておく。

現在,コンピュータプログラムを他人に使用させるのに,①ソースプログラム(3)を含むソフトウェアを開示する場合,②コンピュータに入力したプログラムをユーザーが端末機を用い,回線を通して利用する場合,③オブジェクトプログラム(通常,コンピュータが直接理解できる機械コードに翻訳されたプログラム)を入れたフロッピー・ディスクやテープを貸与し,または,④販売する場合,の四つの態様がある。

①の場合は,ユーザーはプログラムの内容を知っているのであるから,無断譲渡やコピーの禁止といった秘密保持が使用契約の中心となる。また,使用状態に合わせたプログラムのヴァージョンアップ(改変)も,このケースにおいて契約上可能となる。②の場合は,ユーザーはプログラムを知り得ないから,回線使用時間または処理件数等を基準とする使用支払が契約の中心となる。③貸与契約を結んでフロッピー・ディスクを渡す場合,ディスクから逆にソースプログラムを知ることは極めて困難であるため,秘密保持義務はたいして問題にならず,コピー禁止と契約終了時のディスク返還または内容消去義務が契約の中心となる。④ディスクを販売する場合-パソコンではこれが殆どである-には,レコードや本と同様,一々コピー禁止の契約をすることは不可能である。このため,ソフトメーカーは,ソフトの中にコピー防止用プログラム(プロテクト)を組み込むなど,コピー防止に懸命の努力をしているものの,レンタルソフト店やマニア側もプロテクトをはずしてコピーするプログラムを作るなどコピー戦争の知恵比べが過熱していることは周知のとおりである。

現在,コンピュータ企業の投資の70%がソフトウェア開発にあてられており,先行開発者保護のため,ソフトウェアを模倣から法的に保護する必要があることは言うまでもない。だが,今日無断コピーが訴訟の場で問題となっているのは,ロム(ROM)(4)に収納されたテレビゲームやパソコンのプログラムについてである。

大型プログラムについては模倣が容易でないうえ,信用ある大手メーカーによって開発され,①,②,③のようにユーザーとの契約もしっかりしているので,問題は今のところあまり起こっていない。しかし,汎用コンピュータの大型プログラムのパッケージ化の促進こそがソフトウェア危機回避のため,時代の要請するところである。そして,パッケージ化促進とソフトウェアの無断コピーからの法的保護は,まさに表裏の関係にあることに注目しなければならない。

知的財産権とは何か

ソフトウェアを保護する法律について述べる前に,知的財産権とは,どのような法律を言うのか,簡単に説明しておく。人類は,所有権に代表される,有体物を支配する法制度(ここでは有体財産権法と言っておこう)については,何千年という古い歴史を持っている。しかし,人間が頭の中で創る発明や,音楽,詩,美術等の著作を法的に保護する制度の歴史は,せいぜい数百年昔に遡るに過ぎない。このような,知的な創作を保護する法律を,知的財産権法と呼んでいる。知的財産権法は次のような体系を持ち,それに含まれる法律は科学の進歩,産業の発達に合わせて,急速に増加している。

知的財産権法

 ■工業所有権法(特許法・実用新案法・意匠法・商標法・不正競争防止法)

 ■著作権法

 ■半導体チップ保護法(略称)・種苗法

今,この詳細な説明はできないが,ソフトウェアの保護に関連する法律として,特許法,著作権法,不正競争防止法を挙げることができる。

不正競争防止法とは,例えば,有名なグッチのハンドバックの形(これを「商品表示」と言う)によく似たハンドバックを売出したり,ホテルに勝手にヒルトンの商号(「営業表示」と言う)を付けて営業したりして,消費者を誤認・混同させる行為に対し,本当の営業者に,その差止めと損害賠償請求を認めることによって,公正な競争秩序を確保することを目的とする法律である。

コンピュータプログラムの不正競争防止法による保護

コンピュータプログラムに関連して,不正競争防止法が最初に適用されたのは,著名なテレビ型ゲーム・マシンのゲーム内容を無断でコピーした製品を販売した者に対して起こされた,不正競争防止法違反を理由とする損害賠償請求事件である。この事件において,テレビ受像機に映し出されるインベーダー等の映像や,ゲームの進行に応じたその映像の変化の態様を,不正競争防止法の対象である「商品表示」とした,画期的な判決が相次いで出された(東京地裁昭和57年9月27日判決,大阪地裁昭和58年3月30日判決)。

しかし,不正競争防止法で保護している「商品」は,あくまで有体物であって,無体物であるプログラムそのものは直接保護の対象とならない。しかも,わが国の不正競争防止法は,違反行為を個別的に列挙するにとどまり,パリ条約(5)10条の2のように,一般的に不正競争行為を違法とする「一般条項」(6)をおいていないので,その適用に限界がある。したがって,プログラムをより広く保護するには無理がある。

1990年の改正によって,不正競争防止法に営業秘密の保護が導入された(1条3項)。これは,営業秘密(プログラムも秘密にしていればこれに当たる)を不正な手段で取得する行為に対し,その使用(盗んだプログラムを使うこと)や第三者への開示を禁止し,損害賠償を請求できるとするものである。このため,前述①,②の場合の,当事者が秘密にしているプログラムを,第三者が無断複製したりする行為に対し,不正競争防止法が適用されることになった。

コンピュータプログラムの特許法による保護

わが国の特許法は,発明の概念を「自然法則を利用した技術的思想の創作」と定義(第2条)している。しかし,このような定義を特許法の中に設けている国は他に皆無であり,一般的に科学技術の進歩に合わせて実務上発明概念を形成するという態度がとられている。コンピュータプログラムについても,特許法の適用をめぐって各国が様々な対応を示してきた。

1968年,フランスは特許法を改正し,ヨーロッパ諸国に先がけて,コンピュータプログラムは産業的性質をもつ発明とみなさないとする規定を設けた(7条2項3号,現行法では6条2項C号)。イギリスでは1970年に政府に提出されたバンクス報告書が,コンピュータプログラムには特許適格を与えるべきではないと勧告した。しかし,その理由は,コンピュータプログラムが発明と言えないということではなく,①特許で保護すると,独立性が強すぎてコンピュータの自由な利用を制約する,②新規性の調査が困難である,③侵害発見が容易でない,等という実利的なものであった。その後,1973年に成立したヨーロッパ特許条約(7)52条2項C号は,コンピュータプログラムは特許能力ある発明とみなさないとの規定を設けた。そのため,条約との整合性をはかって,1977年にイギリス,1980年には西ドイツが夫々特許法を改正し,条約と全く同じ条文を設けた。これによって,ヨーロッパでは,コンピュータプログラムについて特許を取得する途が完全に閉ざされたかにみえた。

アメリカにおいても,最近までコンピュータプログラムは,それ自体はもちろん,機械装置または工業プロセスとともに用いられた場合でも特許法による保護は与えられないとの連邦最高裁の判決が続いた(1972年Benson事件,1978年Flook事件)。ところが,1981年5月,連邦最高裁はDiehr事件で5対4の僅差ながら,突然従来の態度を一変した。この事件の内容は,合成ゴムの精密成型プレスを,コンピュータで制御する方法に関するものである。ゴムを成型しようとする型にいれ,温度等の条件によりアレニウス方程式が導く時間,金型中で,加硫すると最適の製品ができるが,成型プレスの温度は精密に測定することができず,管理不能なものとみられていた。特許出願された工程は,測定された温度が自動的にコンピュータにインプットされ,アレニウス方程式によって,成型加工時間を繰り返し再計算し,硫黄の出口の開閉をコントロールするものであった。最高裁は,この・チ許申請は,数学の公式について特許を求めたものではなく,ゴム成型の工程について特許を求め,明らかに優れた結果をもたらしたという理由で,特許を認めたものである。

コンピュータプログラムが,アメリカ特許法の保護対象となるか否かは,具体的には同法101条の解釈問題である。同条は,「新規かつ有用な方法,機械,製品,組成物…を発明した者は,…特許を受けることができる」と規定しており,この「方法」または「機械」に,コンピュータプログラムが該当するかどうかが争われたのである。アメリカ特許法は,このように保護対象を列挙する形式をとっているが,連邦最高裁は立法者意志を尊重して,人間が創り出したものは原則としてすべて保護対象たりうるとの解釈態度をとっている。これを日本の特許法と比較すると,わが国では「自然法則を利用した技術的思想」としての「発明」に特許保護が限定されるが,アメリカ判例では,自然法則を利用していないものでも,保護対象に当たると解されるのである。このように保護対象を広く解するのがアメリカ判例の態度であるが,自然法則・自然科学上の心理やその数学的表現などの,科学・技術の基礎的研究手段は,個人に独占させるべきでなく,例外的に保護対象から除くとされている。

これを,コンピュータプログラムに適用してみると,a数学的問題の解決手段(狭い意味のアルゴリズム)としてのプログラムは基礎的研究手段であるがゆえに特許の保護対象たりえない。これに対し,b問題解決のための段階的手順(広い意味のアルゴリズム)としてのプログラムは,アメリカ特許法101条の「方法」に当たると解されよう。Diehr 事件は,まさにこのaとbの狭間をさまよったケースであったのである。

Diehr判決以後,アメリカ特許商標庁(PTO)はプログラムの特許審査のためのガイドラインを設け,審査を弾力的に行っている。また連邦巡回控訴裁判所(CAFC)(8)も,このDiehr判決を重要な指針として尊重している。

フランスにおいても,先に述べたコンピュータプログラムを特許の対象から除外する規定の改正について,批判が起こっている。1981年6月15日,パリ控訴院は,油井の存在及び範囲をコンピュータプログラムによって,グラフ化して確認する方法の特許申請について,工業所有権局長が出願却下した処分を Diehr判決と同様の趣旨で取り消した。そして,「コンピュータプログラムを特許の対象からはずすとの規定は,制限的に解すべきであって,方法の発明はプログラムで統制されるコンピュータによって,一つや二つのステージが遂行されるがゆえに,特許が与えられないとすることはできない」と述べている。

わが国でも,特許庁は昭和50年12月に「コンピュータプログラムに審査基準(その1)」を,昭和57年12月には「マイクロコンピュータ応用技術に関する発明についての運用指針」を発表し,プログラムが特定の結果を得るため利用している法則が自然法則である場合には特許性を認めることになった。このようにある種のプログラムは特許によって保護されるが,この保護をプログラム全般に及ぼすことはできない。たとえそれが立法的に可能としても,イギリスのバンクス報告書が指摘したような問題点が残るであろう。

コンピュータプログラムの著作権法による保護

アメリカでは1980年に著作権法を改正し,コンピュータプログラムを著作物として保護することを明らかにした(117条)。判例も,ソースプログラムの著作性はもちろん,ROMに固定されたオブジェクトプログラムについても,著作物の複製物であることを認めることでほぼ固まっている。イギリスにおいても,さきに出されたウイットフォード報告書に対する,1981年の政府見解の中で,プログラムの保護は著作権法で行うとの原則を確認していた。その他,ドイツ,フランス,オランダ,ハンガリーでも司法省や判例は著作権法によるプログラムの保護を肯定していた。このような状況を受けて,1980年代後半に相次いでヨーロッパ諸国は,著作権法を改正し,コンピュータプログラムを著作物として保護することにした。

わが国でも,他人のテレビゲームのプログラムをロムライターで無断でコピーした事件で,「ソースプログラムは創作性があれば学術著作物であり,オブジェクトプログラムはソースプログラムの複製物である。したがって,そのオブジェクトプログラムを他のROMに収納する行為は,著作権法上の複製に当たる」との判決が現れ(東京地裁昭和57年12月6日判決),その後同じ趣旨の判決が続いている(横浜地裁昭和58年3月30日,大阪地裁昭和59年1月26日判決)。このように世界の趨勢はプログラムの保護を著作権法で行うという方向に進んできた。

わが国では,1985年(昭和60年)に著作権法を改正し,コンピュー・^プログラムを,著作権法の保護対象である著作物に含めることにした(1986年1月1日より施行)。

ここで,著作権法におけるコンピュータプログラムの保護について説明する前に,それに関連する範囲で,著作者の権利そのものについて,簡単に解説するのが,その理解に役立つと思われる。

著作権法は,著作者の権利の保護と,第三者が著作物を正しく利用する方法を定めることにより,文化の発展に寄与することを目的にしている(著1条)。このため,著作者の権利の保護と,その利用の調整が,つねに著作権法最大の問題となる。

著作者の権利には,著作権と,それとは全く別の著作者人格権がある。著作者人格権は,公表権(著作物を公表するかどうかの決定権),氏名表示権(公表に際し著作者名を表示するかどうかの決定権),同一性保持権(著作物が著作者の意に反して変更,切除されない権利)をその内容とする。自分の氏名を他に譲渡できないように,著作者人格権は,他人に譲渡することができない。

これに対し,著作権は譲渡可能な財産権であり,著作物の創作によって発生し,著作者の死後50年間存続する。著作権の内容は複雑であるが,それがコピーライトと呼ばれているように,著作物を無断でコピー(複写)されない権利と考えると分かりやすい(著21条)。著作権法は,著作物の,私的利用のための複製,図書館での複製,学校での教育目的の複製,等を定め(著30条以下),著作物の公正な利用のため,著作権を制限している。

著作権法による,コンピュータプログラムの保護については,この複製権と,同一性保持権が特に重要であり,今回の改正に際しても,コンピュータプログラムの性質に即した特別規定を設けた。

次に,具体的事例を挙げながら,詳しく説明しよう。

1.プログラムとは何をいうのか

著作権法では,プログラムとは,「電子計算機を機能させて,一の結果を得ることができるように,これに対する指令を組み合わせたものとして,表現したものをいう」(著2条1項10号の2)と定義されている。

プログラムは電子計算機に対する指令であるから,人に対する指令であるシステム設計書,フローチャート,ユーザーズマニュアル等は,プログラムではない。プログラムは「一の結果を得ることができる」ものが,その最小単位となる。「一の結果」とは,一定のデータ処理をした場合の,最終結果を指・キと解すべきであって,コンピュータ内部で行われる,データ処理過程の個々の結果を指すのではない。したがって,アプリケーション・プログラムが,全体で一つのプログラムであることは当然であるが,それがいくつかのモジュールから構成されている場合に,その夫々のモジュールをもまた,一つのプログラムと考えることができる。しかし,それ以下のものはプログラムとは認められない。これに反し,コンピュータ内で,回路の,あるゲートの開閉の命令にのみ用いられているマイクロプログラムは,上記のような「一の結果」を得るものとは言えず,著作権法の対象としてのプログラムとは言えない。また,「組み合わせ」であるから,一つのステップが,どのような機能を果たそうが,プログラムには当たらない。 プログラムには,プログラム言語で記述されているソース・プログラムと,それをコンパイラで変換したオブジェクト・プログラムがある。オブジェクト・プログラムはROMやフロッピー・ディスク,マグネット・ディスク等に収納されていることが多いが,収納されているディヴァイス如何にかかわらず,著作物であることに問題はない。

著作権法の保護が及ばないものとして,プログラム言語,規約,解法が明文で定められた(著10条3項)。規約とは,プログラム接続における約束事(JIS 規格のようなもの)であり,インターフェイスやプロトコールを言う。解法とは,一般にアルゴリズムと呼ばれており,問題解決の論理手順を言う。これが保護されないのであるから,プログラムからアルゴリズムを解明し,そのアルゴリズムにしたがって,新しいプログラムを作ることは,いずれも著作権の侵害とはならない。アルゴリズムは,後に述べる翻案との関係で極めて重要な問題を提起することになる。

2.プログラムについての同一性保持権の例外規定

前述のように,著作者は著作物の同一性保持権を持つ。これを,もう少し具体的に説明すると,夏目漱石が「坊ちゃん」の著作権を,ある出版社に譲渡したとしても,その出版社が勝手に「坊ちゃん」のストーリーや表現を,変えることはできないのである。

しかし,これをプログラムにも厳格に適用すると,困った問題が生ずる。本来,プログラムは,コンピュータに使用するものであるうえ,不断にヴァージョン・アップを行い,性能を向上させ,新しい機能を追加していくという性質を持つ。使用に際し,ユーザーが,プログラムをある程度改変する必要があるし,ヴァージョン・アップを著作者以外の者,あるいはユーザーが行わねばならない場合も出てくる。これを許さないと,もはや,プログラムの機能は実効性がなくなることになる。

このようなプログラムの特性を考慮して,著作権法は,①特定のコンピュータにおいて利用し得ないプログラムを当該コンピュータにおいて利用し得るようにするための改変と,②コンピュータにおいてより効果的に利用し得るようにするための改変は,同一性保持権を侵害しないとした(著20条2項3号)。①は,主として,コンピュータのハードウェアのリプレースを念頭に置いたものであるが,ソース・プログラムをオブジェクト・プログラムに変換することも含まれよう。②は,「より効果的に利用し得るようにする改変」であるから,ヴァージョン・アップして,プログラムをより効果的に利用できるようにする行為は,常に,同一性保持権を侵害しないことになる。

注意すべきは,著作権法20条2項3号は,一定の改変行為が同一性保持権を侵害しない,と定めたのみであり,著作者以外の誰でもが,そのような改変ができる権利を持つと定めたものではない。前述の,「坊ちゃん」の例を念頭に置いて考えてもらいたいが,プログラムの著作者と,著作権が別個の人に帰属した時,著作権者は,著作者の許しを受けずに,著作権法20条2項3号の改変をなしうるのである。このような改変をなしうる権限は,著作権のほか,次に述べる場合にもある。

3.プログラムの複製・翻案
(1)私的使用のための複製・翻案

著作権の本質は,他人に著作物を無断でコピー(複製)されない点にある(著21条)。しかし,前にも述べたように,個人の私的な使用のためには,個人的に持っている複写機器で,自分で著作物を複製,翻案することができる(著30条,48条)。

複製とは,著作物をコピーすることである。翻案とは,既存の著作物(ここではプログラム)に改変を加え,同一と言えないものにしたが,原作と全く異なった程度には改変していないものを言う。ヴァージョン・アップをその例として考えれば,よく分かる。

この私的使用のための複製・翻案は,文字通り,著作物の全く自由な利用であり,逆に言えば,著作権を最も厳しく制限していることになる。そのため,著作権法30条は,厳格にその要件を定めている。 まず,「個人の私的使用」は,プログラムを個人的に使用することであって,学校や企業は,個人とは言えない。また,個人であっても,業務上利用するためにプログラムを複製・翻案することは,私的使用とは言えない。例えば,個人が喫茶店を経営している場合に,店に置いたゲーム機に使用するため,ゲームのプログラムを複製することは,許されないのである。次に,「自分で著作物を複製」することが要件である。つまり,私的使用をする者が,自ら複製をする必要がある(他人を手足として使うことは,自ら複製したことになる)。したがって,他人のため,業として複製することは(コピー屋),たとえ,その他人が,私的に使用する場合でも,許されない。この場合,注意すべきは,自ら複製する場合でも,公衆が使えるように設置された,自動複製機器を利用して複製することはできない。例えば,レンタル・ソフト店に置いてあるダヴィング装置を使ってする複製は許されない。自分や友達が,個人的に持っている機器でする場合にのみ,複製は許されるのである。

しかし,複製に用いる複製物には,全く制限がなく,借りたプログラムを複製しても構わない。また,著作権を侵害して作成された複製物(海賊版プログラム)を複製して,私的に使用しても,著作権を侵害することにはならない。)この点については,後で述べる「みなし侵害」の項を参照のこと)。

(2)複製物の所有者による複製・翻案 -業務目的に複製-

著作権者でないかぎり,著作物のオリジナルや複製物を所有していても,前記の,私的使用のための複製・翻案の場合等以外に,複製・翻案をすることは,著作権侵害となる。このため,企業や学校はもちろん,個人でも,業務上の利用のために複製・翻案を行うことはできない。

しかし,コンピュータを作動させるためには,バックアップやリプレースのためにプログラムを複製することは,日常茶飯に行われていることであり,この原則を厳格に適用することは,プログラムの特性から適当でない。このため,プログラムの複製・翻案について例外規定が設けられた(著47条の2)。 これによると,①プログラムの著作物の複製物の所有者は,②自らこのプログラムをコンピュータに利用するため必要と認められる限度で,③複製・翻案できる,こととなった。

この要件の①②について,詳しく説明しよう。

①のプログラムの「著作物の複製物」とは,プリントアウトされたプログラムはもちろんのこと,何らかの記憶媒体に収納されているプログラムも含まれるのは当然である。複製・翻案できるのは「所有者」のみであって,複製物を他人から借りた者は,そのような権利はない。「著作物の複製物の所有者」であることが要件になるから,プログラムがリースされた記憶媒体に収納されている場合には,プログラムの正当な使用権原を持つ者であっても,複製物の所有権を持たないから,複製権を持たないことになる。このため,この規定は,パソコン用またはゲーム用プログラムのように,買取りの場合にのみ適用されることになる。一般に,大型プログラムはリースが多いので,本条の適用はなく,契約でこの問題は処理されることになる。

本条の「所有者」については,他に何の制限もないので,海賊版のように,著作権を侵害して作ったプログラムの複製物を,その事情を知らないで買ったユーザーも複製権を持つことになる(この場合,ユーザーは適法に所有権を取得する)。しかし,その事情を知って買った場合には,そもそも使用そのものが著作権を侵害するとみなされるのであるから(著113条2項),複製・翻案権は持ちえない(後述の,「みなし侵害」の項参照)。

②「自らこのプログラムをコンピュータに利用するため」であるから,他人のためにする複製・翻案はなしえない。但し,私的目的の複製の場合と異なり,この場合の複製・翻案は,必ずしも複製物の所有者が自ら行う必要はなく,他人に依頼して行うことができる。「必要と認められる限度で」とは曖昧であるが,バックアップ用複製,コンピュータを利用する過程で必然的に生ずる複製,記憶媒体を変換するための複製,使用目的に合わせるための翻案,使用するコンピュータをリプレースする場合の翻案,等であろう。複製する部数も,必要と認められる限度で認められるのであり,1部ないし2部程度である。

本条の規定は,あくまで,自分が使用する目的での場合に限定したものである。したがって,プログラムの著作物の複製物の所有者が,複製物(所有する複製物及びそれから作った複製物)のいずれかについて,所有権を譲渡したときには,他の複製物を廃棄しなくてはならない(著47条の2第2項)。廃棄せずに保存すれば,著作権侵害となる(著49条1項4号)。この譲渡を認めると,無制限の複製を認めることになり,自己使用に限って複製を認めた本条の趣旨を,逸脱することになるからである。それ故,複製物を滅失した場合には,廃棄しなくてもよい。廃棄とは,記憶媒体から,プログラムを消去することであり,記憶媒体まで廃棄する必要はない。

同様の理由で,本条によって,合法的に複製・翻案された場合であっても,その複製物・翻案物を公衆に有償・無償を問わず譲渡・貸与・または提示することは,著作権侵害となる(著9条1項3号)。公衆とは,特定かつ多数の者を含む(著2条5項)から,学校のクラスのように多人数の場合は,公衆に当たる。しかし,数人の仲間内で,フロッピー・ディスクを譲渡・貸与することは,これに当たらない。提示とは,相手にプログラムの内容が分かるような形で示すことを言う。プログラムをプリンタで目に見える形にすること等がこれに当たり,プログラムを使用させたり,テレビ・ゲームのプレーをさせても,提示とは言えない。

4.みなし侵害

著作権は,無断でコピー(複製)されない権利であり,2.3.で述べた場合を除いて,無断で複製・翻案をすると,著作権侵害となり,著作権者から,侵害行為の差止請求や,損害賠償を請求されたりする(著112条以下)。

しかし,著作権には,使用権が含まれないため,海賊版の本を読む(使用する)ことは,何等著作権侵害にはならない。しかし,これを全く放置することは,衡平に反するので,一定の行為を「侵害とみなす」ことにした(著113条)。その第2項は,プログラムの著作物の著作権を,侵害する行為によって作成された複製物を,業務上コンピュータに使用する行為は,それを使用する権原を取得した時に,(侵害物であるという)事情を知っていた場合に限り,著作権侵害になる,と定めている。簡単に言うと,海賊版プログラムと知って取得した者は,業務上コンピュータに使用すると,「みなし侵害」になる,ということである。

この海賊版プログラムには,輸入海賊版プログラム,及び,これ等から,著作権法47条の2第1項の規定により作成された複製・翻案プログラムが含まれる。したがって,海賊版プログラムを私的使用目的で複製し,使用しても,「みなし侵害」にはならない。

おわりに

コンピュータプログラムを,知的財産権法でどのように保護するかについて,できるだけ分かりやすく概説した。特に,著作権法による保護については,プログラム利用者の立場に重点を置いて説明した。プログラムの著作権者,またはプログラムを作る立場からすれば,どのようなプログラムを作ると,著作権侵害の問題が生ずるかが主要な関心事となるであろう。しかし,今回は,この稿の読者層を考え,この点については触れなかった。またの機会に譲りたい。

コンピュータプログラムを著作権法で保護することは,1980年にアメリカが著作権による保護をうち出し,わが国の立法に強く影響した経由がある。そのため,利用することを目的とする経済財であるコンピュータプログラムが,小説や絵画と同じように著作権で保護されるという無理があった。現在の著作権法の規定によって,コンピュータプログラムを保護する場合,種々の解決に困難な問題が生ずるのは,このような理由からである。

コンピュータプログラムの保護については,立法的解決とともに,今後の研究の発展に待たねばならない面が大きいことを指摘しておきたい。

[註]

(1)プログラムをユーザーの要求に合わせて修正し,効率的にする等,常に最新の状態に保つための作業に要する費用。

(2)広範な種類の問題の解を求める種々のプログラムをかけることのできる計算機。アンソニー・チャンダー他著「コンピュータ用語辞典」〔第2版〕232頁。

(3)コンピュータを動かすには,まず人間が理解しうる言語でプログラムを作成する。これをソースプログラムと言う。これを機械が理解するオブジェクトプログラムに翻訳(compile )することにより,初めてコンピュータを作動させることができる。

(4)Read Only Memoryの略。読み出し専用のプログラム固定記憶装置を指す。

(5)工業所有権の保護に関するパリ条約(1883年)。

(6)不正競争防止法は,本来自由競争社会における経済活動のフェアプレーを保障しようというものである。アンフェアーな行為は類型化して禁止しても,次々に類型外の新しい行為を行うので,追いつかなくなる。このため,進んだ国では,「工業上又は商業上の公正な商慣習に反するすべての競争行為はアンフェアー」である,といった一般的に不正競争行為を規定する。これに反し,わが国では,類型化した行為を禁止するのみである。

(7)特許権は,各国毎に出願して取得する。しかし,ヨーロッパでは,出願・審査手続を統一的に行い,指定した国で特許権が取得できるヨーロッパ特許条約を1978年から発足させた。

(8)アメリカ特許商標庁の判断について,不服の訴えを審理する専属管轄権を持つ裁判所(CAFC : Court of Appeals for the Federal Circuit )。

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仙元 隆一郎
Ryuichiro Sengen
  • 1955年京都大学法学部卒業
  • 現在同志社大学法学部教授(知的財産権法担当)
  • WIPO(世界知的所有権機関)仲裁人
  • パリ大学附属無体財産権研究所客員研究員

上記の肩書・経歴等はアキューム11号発刊当時のものです。