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Accumu Vol.2

高分解能人工衛星画像の領域分割と認識処理

日下 迢

近年,人工衛星によるリモートセンシング・データの種類も増加し,また,同時にそれらのデータの地上分解能も高くなってきた。例えば,Landsat TMデータの地上分解能は30m,SPOT HRVデータでは20m,我が国のMOS-1MESSRSアータでは50mである。このような高い分解能を持ったリモートセンシング画像は,視覚的には,非常に多くの地表面に関する情報を与えているにもかかわらず,これらの画像に従来からよく用いられている多変量解析に基づく統計的分類手法を適用した場合,分類精度が向上するよりもむしろ一部の分類カテゴリーについては悪くなるという問題が生じている。統計的分類手法は,画素毎のスペクトル情報に基づく自動分類の方法であり,地表面の複雑な構造的な特徴を考慮していないということがその原因の一つと考えられる。高分解能人工衛星画像の解析においては,対象物の空間的な特徴を考慮した新しい解析方法が望まれるのである。

我々は,最近,人間が対象物を区別するうえで重要な情報である”色”に着目し,色の変化によりエッジ(ほぽ同一の色を持った領域の”縁”を見つけ,画像を小領域に分割する方法を試みてきた。ここでは,SPOT画像を例にとりあげ,色エッジで囲まれた小領域を画像の構成要素の基本単位(以後,”素領域”と呼ぶ)として取り扱う画像解析について述べる。

色エッジに基づいた衛星画像の領域分割

一般に,エッジを使って画像を小領域に分割する処理は,必ずしも満足の行く結果を与えていない。これは,通常のエッジ・オペレータではエッジを連続した点として抽出することが難しいためである。我々は,エッジが連続した点として見つけられなくても独立した1つの領域として抽出できる方法を考案した。

マルチスペクトル画像からエッジを見つけるには,基本的には,微分処理と閾値処理により行われるが,最終的に一枚のエッジ画像を求めるには色々の方法が考えられる。我々は,比較的安定したエッジの抽出が望めるSobelの微分オペレータを用い,マルチスペクトル画像の各バンド毎の微分値の合計を計算し,その合計値からエッジを抽出する。この意味において,抽出されたエッジを”色エッジ”と呼ぶ。

微分値のデータから細いエッジを見つけ出すためには,同値の設定が最も重要な問題となる。ここでは,ローカルな微分値の変動を考慮したエッジ抽出処理を行った。即ち,

(1)合計微分値のヒストグラムを求め,ヒストグラムのピークに対応する微分値と画像全体の平均微分値の中間値を同値Tとする。

(2)閾値T以上の全ての画素に対して,その周囲8点の微分値の変化を4方向(上下,左右,右上左下,左上右下)について調べ,微分値の変化が一つの方向でも凸になっていればその点をエッジ点とする。

このような処理を全ての画素に適用した後,1点または2点の孤立したエッジ点をノイズと見なし,それらを除去した。

図1
図2
図3

図1は,1986年8月20日に撮られたSPOT HRVデータによるカラー合成画像が示されている。図1は,金沢市を中心とする512x512画素領域である。画像の左側の薄い赤色の領域は農地であり,犀川が画像の中心部を左から右へ横切る黒い線状構造として現れており,上部から斜めに横切る細い線状構造として見えるのが北陸自動車道である。図2は,図1の画像より得られた色エッジ点である。図2と図1を重ねた画像(エッジは黒色で表示されている)が図3に示されている。エッジで囲まれた領域は,ほぽ同一の色を持っているということが分かる(図3を参照せよ)。


図4

次に,図2に示されている色エッジ点を基に,エッジで囲まれた部分を独立した一つの領域(素領域)として抽出する,つまり,領域に含まれる画素に全て同じラベルを与える処理を行う。これを行うために,画像処理の分野でよく使われる距離変換という処理方法を用いた。素領域を抽出する処理の概念図が図4に示されている。図4(a)には,途切れたエッジ点(”0”の点)で囲まれた3つの領域A,B,Cがあると仮定されている。エッジ以外の点を全て”1”とし,距離変換を行い,エッジ点からの等距離線を構成する(図4(b))。図4(c)の数値1,2,3は,エッジ点からの距離を示している。その等距離線を基に素領域を抽出する。即ち,局所的な距離の最大値を見つけ,それにユニークなラベルを割当て,素領域の核とする(図4(c))。その後,核の部分を並列処理的に拡張し,独立した3つの素領域A,B,Cを求める(図4(d))。最後に,残ったエッジ点を隣接する似た色の素領域に融合させた。このような処理を図2のエッジ画像に適用した結果が図5に示されている。図5はかなりのパッチ状の素領域から構成されており,図1と比較して画像の面的・線的構造がよりよく分かる。

図5

SPOT画像の認識処理

素領域のスペクトル,及び,空間的特徴量を基にして,抽出された素領域がどんな対象物に対応しているかを調べる。

最初に,稲作地,住宅地等のような特定の対象物に対して,素領域の形や色等にどんな特徴があるかを知るために,次のような素領域の特徴パラメータが計算された。

(a)色(CL)

(b)基準化恒生指数(NVI)

(c)フォームファクタ(F)

(d)コンパクトネス(C)

(e)明るさの分散(VB)

(a)-(e)のパラメータの値は,素領域内の平均カウント・レベルを用いて計算される。素領域内の色を一意的に定めることは難しいので,ここでは簡単に,色を示す指標としてバンド1から3の各々のカウント・レベルを用いた。NVIは,バンド3とバンド2との差と和の比,F=A/D**2,C=周囲長**2/Aとして定義されている。Aは素領域の面積であり,領域内に含まれる画素数であり,Dは距離変換の時に求められた最大距離である。Fの値が小さい程より丸みを帯びた形であることを示している。また,Cは素領域の凹凸性を示す尺度であり,その値が小さい程凹凸性が小さいということを示している。VBは領域内のテクスチャ性を示す尺度であり,主成分分析より得られた第二主成分値の分散として定義された。

Table

(a)-(e)までの素領域の特徴量を求めるために,画像中からランダムに素領域を選びだし,地図,航空写真,グランド・トルースを参照して,それらがどんな対象物に対応しているかを決定した。このようにしてつくられたテスト・データのうち約半分をトレーニング・データとして使用し,各分類カテゴリー別に素領域のスペクトル,及び,空間的特徴量を計算した。Table1には,それらの特徴量の平均値が示されている。それぞれのカテゴリーの特徴は,NVI,VB,Fによく現れている。

次に,画像甲の全ての素領域について,Table1に示されている特徴と類似の特性を持った素領域に分別する,いわゆる,分類作業を行う。ここでは,素領域のスペクトル特性のみを用いた分類結果とスペクトル,及び,空間特性の両方を用いた結果とを比較するために,次のような分類手法を採用した。

最初,スペクトル特性であるCLのみによる統計量から各分類クラスの信頼域を設定する。信頼域の境界は自由度3のx2(3)の値により決定し,α=0.1に選んだ。素領域の特性がどの分類クラスに類似しているかを決定するための判別関数はマハラノビス距離を使った。スペクトル,及び,空間特性を用いる分類の場合には,先ず,素領域のCLの値がどのクラスの信頼域に属するかを調べる。単一のクラスに割り当てられた時には,分類したい素領域はそのクラスに属するとする。もし,重複するクラスに割り当てられたとすると,その時のみNVI,VB,C,Fの統計量を用いて重複するクラスのどのクラスに属するかを判定する。この時にも,マハラノビス距離も用いる。

2つの方法によって得られた分類結果が,Table2に与えられている。分類精度は,前にも述べたように,あらかじめ作成されているテスト・データを用いて行われた。Table2に示されているように,素領域の空間特性を考慮した分類の方が,都市域,住宅地,道路において精度の向上がみられるということが分かる。これらの分類カテゴリーのスペクトル特性(CLの値)は,Table1から分かるようにそれほど変化はない。つまり,素領域の空間的な特徴量がスベクトル・パターンのみでは区別できない領域の判別に有効であると言える。

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日下 迢
Takashi Kusaka
  • 理学博士
  • 名古屋大学理学部物理学科卒
  • 京都大学大学院理学研究科修士課程物理学専攻,修了
  • 京都大学大学院理学博士課程天体核物理学専攻、修了
  • 金沢工業大学教授
  • 京都大学大学院及び金沢工業大学勤務の初めのうち,天体物理学,特に太陽系の起源の解明に従事していた
  • その後,リモートセンシング・データの解析に研究を移行し,現在,リモートセンシング・データ解析,及び人工知能の問題に興味を持って研究を進めている

上記の肩書・経歴等はアキューム2号発刊当時のものです。