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Accumu Vol.3

パソコンのなかの惑星たち

作花 一志

この小文を読んでいる皆さんのなかには1991年6月18日(火)の日没後西の空に非常に明るい星を見た人も多いでしょう。ふたご座のポルックスとしし座のレグルスの間に星図に載っていない三つの明るい星が重ならんばかりに接近して輝いていましたが,これは実は新しい星ではなくたまたま金星・火星・木星が同じ方向に重なり合って見えた現象です。全天で最も明るい天体は太陽と月を除けば金星で次いで木星・火星の順ですから,私たちはこの日最も明るい三つの星が一堂に会するのを見たということになります。太陽の周りを回っている惑星は地球から見ると黄道12宮と言われる12の星座に沿って運行しています。太陽に近い惑星ほど速く運行しますから惑星同志は追いついたり追いつかれたりして,たまたま同じ場所で輝くということが起こります。その結果すばらしい天体ショーで私たちを楽しませてくれます。

3惑星会合

さて3惑星会合とは果たして珍しい現象なのでしょうか? それを調べるため水星から土星までの5惑星のうちの3個が2゜以内に接近する日を1900年~2100年間で捜してみました。惑星の位置は日付と軌道要素と呼ばれる6個の量を与えれば求まります。とはいえその計算はかなり大変です。地球を含め6個の惑星についてケプラーの方程式を数値的に解いて何回かの座標変換を施して太陽と5惑星の位置を算出し,そのうち3個の惑星の位置が2゜しか違っていないものだけを拾っていきます。その結果このようなイベントはこの200年間に29回起こることがわかりました。前回の3惑星会合は1966年2月24日に起こりましたが,水星・火星・土星が日没後の低い西の空に見えたというあまり目立たないものでした。今世紀中にもう3回(1995年11月19日,1996年3月23日,2000年5月18日)起こりますが,1996年と2000年の会合は太陽に近すぎてその姿は見られません。太陽からある程度離れて日の出前あるいは日没後に眺められるものは29回中5回だけで,また金星・火星・木星という明るい3惑星の会合は3回のみです。そしてその両方に重複しているのは1991年の会合しかありません。その意味で1991年の6月18日はこの200年間で最も見事な惑星会合の宵だったのです。

この他にも面白い惑星会合はいくつかあります。1910年10月30日の日の出前,東の低い空に水星・金星・火星・木星が輝いていました。4惑星が2゜以内に収まるのはこの200年間でこの日だけです。また2100年11月13日の日の出直前,5惑星が地平線と垂直に並んで昇ってきます。朝6時半頃の東の空に上から金星・土星・木星・火星・水星が一直線上に連なっているところを私たちの曾孫か曾々孫は眺めることでしょう。大きな明るい星の出現と言えば歴史的・伝承的に有名なのはイエスの誕生の時現われたという「ベツレヘムの星」です。この星についての記録は新約聖書のマタイ福音書のみで真実性については異議もあります。当時の大文明国のローマ帝国にも漢帝国にもこの記録は伝わっていません。しかしとにかくマタイ福音書第2章の記載通りとして考えてみましょう。

……東方の博士たちがエルサレムに来てこう言った。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方はどこにおいでになりますか。私たちは,東の方でその方の星を見たので,拝みにまいりました。」…(中略)…すると,見よ,東方で見た星が彼らを先導し,ついに幼子のおられる所まで進んで行き,その上にとどまった。

東方とはユダヤから見て東の方すなわちバビロニア地方のことでしょう。バビロニアはメソポタミア文明の中心地でずっと以前から星の観測が行なわれ占星術も発達していたところです。したがってこの博士たちも天文現象には詳しかったと思われます。博士たちはこの星をバビロニアで見て,ユダヤに着いてからも再び見てエルサレムからベツレヘムまでこの星に導かれたというわけです。この「ベツレヘムの星」については古くから詳しく研究されていて様々な候補が上がっていますが決定版はないようです。彗星説,変光星説,新星説,超新星説,等々。しかし惑星の会合という説が最も有力です。そこで3個の惑星が2゜以内に接近する日をBC20年からAD20年の間で捜してみます。先程と同様な計算の結果[表1]のように6回ほど見つかりますが,うち1回は3惑星が太陽のすぐそばで見えない,残りのうち4回は早朝日の出前で夕方に見えるのは1回です。AD1年11月2日の日の出前は水星・金星・火星・木星の4惑星がてんびん座に会合してずいぶんにぎやかに明るく輝いたことでしょう。しかしこの博士たちに会い,赤ん坊のイエスを殺そうとしたユダヤの王ヘロデ(在位BC37~BC4)は当時在位の末期であったというのですから,これらの3惑星会合は「ベツレヘムの星」の候補としてはすべて失格となります。

惑星の軌道運動

古くケプラー(1571~1630)が提唱して有名な説は木星と土星の「三連会合」です。三連会合とは同じ2個の惑星が1年の間に続けて3回の会合を起こすことで,筆者の計算からも確かにBC7年にこの両惑星は3回会合を起こしています。6月8日には後半夜東の空に,96日後の9月12日には終夜,さらに96日後の12月17日には前半夜西の空に,いずれもうお座に見えたはずです。博士たちは6月から12月まで半年かけてバビロニアよりユダヤまで砂漠を旅してきたのでしょうか。この計算によるとイエス・キリストの誕生日はBC7年9月12日あるいは12月17日となります。図はBC7年(~6年)の地球・木星・土星の太陽系内での配置です。中心は太陽で惑星はすべて反時計まわりに公転しているので,下から6月8日,9月12日,12月17日の位置に当たります。2惑星の会合はありふれた現象で毎年1~2回起こっていますが,それが1年の間に3回続けて起こることは稀で2000年前の博士たちも注目したことでしょう。木星は約12年で,土星は約30年で天球上を一周しますからこの両惑星の会合周期は時計の長針と短針の重なりと同じ考えで計算できて,その結果約20年毎に木星と土星の会合が見られることがわかります。しかし三連会合の起こる時刻はこの2惑星に加えて地球との相対位置・相対速度にも関係しているので上記のように簡単には求まりません。1800年~2300年の三連会合を実際に計算して求めてみると,[表2]のように500年間でわずか4回のみで,1981年に起こった後は2279年まで起こりません。やはり三連会合とは非常に稀有な天文現象のようです。

これらはすべて天文教材ソフト「ASTRON」(作花一志制作)に基づいて計算し,パソコンの画面上で見つけた現象です。遠い過去から遥かな未来までのイベントが机上で再現できるとはコンピュータ・サイエンスの学習の楽しみのひとつです。

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作花 一志
Kazuyuki Sakka
  • 京都情報大学院大学教授
  • 京都大学大学院理学研究科宇宙物理学専攻博士課程修了(宇宙物理学専攻)
  • 京都大学理学博士
    専門分野は古典文学,統計解析学。
  • 元京都大学理学部・総合人間学部講師,元京都コンピュータ学院鴨川校校長,元天文教育普及研究会編集委員長。

上記の肩書・経歴等はアキューム24号発刊当時のものです。