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フランスの日本好きが集うジャパンエキスポ出展レポート

京都情報大学院大学 東京サテライト助教 田中 恵子

KCGグループはJ-LOP+の助成を受け,2015年7月2日から5日までの4日間にわたってパリ郊外のエキスポ会場にて開催されたジャパンエキスポ2015に,京都市と協力して出展した。KCGグループのジャパンエキスポへの出展は今回が3回目である。


ジャパンエキスポ開場とともに入り口付近にあふれる来場者の動画よりキャプチャしたもの

ジャパンエキスポ(JapanExpo)とは…

日本をテーマにパリで開催されている博覧会である。日本の伝統芸能だけでなく,マンガ,アニメ,ファッション,音楽,ゲーム,映画など様々なコンテンツが紹介されている。参加者は年々増加し,2015年のパリでのジャパンエキスポには,24万7473人が来場した。

ジャパンエキスポの拡大とクールジャパン

ジャパンエキスポの始まりについて公式サイトには,次のようにある。「1999年,日本文化の情熱的なファンであった数人のフランス人の若者が当時のフランスにおいて未開拓だったマンガおよび伝統文化,そして『今』の日本文化に特化したイベントを開催するという壮大な案を企画し,そして実行に移した」。右のグラフに示されているように,今や来場者は20万人を超え,多くの企業が出展する大規模な催しへと成長し,フランスにおける日本文化に対する敬愛と盛り上がりが見て取れる。

パリの街中で触れる日本カルチャー

郊外のエキスポ会場にはフランス国内外,ひいてはヨーロッパ中から日本ファンが集まる。友達とグループでお気に入りのキャラクターのコスプレを楽しむ若い男女,フリーハグと書いたプレートを首から下げて,他の参加者と笑顔でハグする若者,日本を観光する予定で少しでもいい情報を得たい中年夫婦,マンガ好きの親子など,人種や年齢の多様さに驚かされる。その様子は私たちが思い描くパリの風景からすれば異質であるが,好きな格好をして楽しむことが良しとされる寛容なユートピア空間のようにも見えた。中には日本産でないキャラクターのコスプレイヤーもいたが,他の参加者から白い目をされるようなこともなく思い思いに楽しんでいたのが見受けられた。


様々に仮装を楽しむ参加者たち

アマチュア/ヤングクリエイターブースの様子

クールジャパン戦略の後押しもあって,年々自治体や日本企業,日本のクリエイターなどの大規模な出展が充実してきている。ライブやパフォーマンスなどのイベントもあり来場者は広い会場を数日間かけてくまなく巡り,お気に入りのグッズや情報を手に入れている。ジャパンエキスポに行く以前の私は,フランスの同人活動をする人たちにとって企業広告は嫌がられているのではないかと思っていた。しかし実際参加してみるとそれは余計な心配だとわかった。来場者の多くは出展者の配布するチラシを喜んで受け取り,中には会釈をし,「ありがとう」と言ってくれる若者も多数いた。

企業などの出展ブースに加え,フランスで同人活動をしているクリエイターたちのブースもある。彼・彼女らは欧州内の同人誌即売会のようなイベントに出展し,自分でつくった作品を趣味で販売している。何人かに話を聞いたが,別の仕事をしていて同人活動はあくまで趣味であり,好きなことをビジネスにしようとは思っていなかった。昔から絵を描くのが好きでマンガに興味を持つようになったが,近くにマンガを学ぶ方法がなく,独学やアメリカのオンラインコースを通じてeラーニングで学んだという声もあった。また作品をネットで販売しようという試みは少数派のようだが,マンガ好きやファンアート好きのコミュニティも醸成されているのが見てとれた。

こうした勢いはジャパンエキスポという一時的なイベント会場に限らない。「マンガや日本食など,日本のものがたくさんある日本人街があります!」と,パリ出身のKCG学生ジリアンさんが案内してくれたのがオペラ地区の一角だった。かつての三越があったエリアだということも手伝ってか,日本語の看板が目に付く。レストランやマーケット,本屋など。近くの外貨両替所では店内に招き猫が置かれ,日本についての情報サイトのチラシも置かれていた。

オペラ座近くのジュンク堂書店を訪問してみると日本語の雑誌,書籍が充実していた。在仏の日本人家族向けの絵本や受験勉強用参考書などに加え,階下にはマンガ,コミックスのコーナーがある。店長の九喜正彦さんに伺うと,日本のマンガは最近人気で,お店に足を運ぶ人も増えているとのことだった。もはや日本コンテンツはパリのストリートに定着しており,クールジャパンは,いまや世界の若者文化の価値基準の頂点なのだ。


オペラ座近くには日本食レストランや書店などが立ち並ぶ。(左)右はジュンク堂パリの店内

オペラ座の周辺(右)この近くの外貨両替所では日本に関係する情報誌や招き猫が置かれており日本人街らしさを感じることができる(左・中)

パリ市内にある日本語や日本のコンテンツに関する施設

私はジャパンエキスポでのブース活動の合間を縫って,パリ市内の日本語あるいは日本のコンテンツに関連する施設を訪問した。いくつかその報告をする。

  • AAA(語学学校)
    Association des Amities Asiatiquesという名でもともとはアジア人向けにフランス語を教える機関として89年に始まった。のちにフランスにおけるアジアへの関心が強まるのを汲み取って,今度はフランス人向けに中国語,日本語,韓国語のコースを開設。さらにはマンガのコースを設立。日本人のマンガ家を講師に迎え,学生は3年間学ぶ。日本語とマンガとの関心が深く結びついているのが体現されたようなプログラムだ。
  • Yutaka
    豊グループが運営する語学学校でマンガや日本料理を学ぶコースも提供している。フランスの人にとって,マンガを学ぶ施設はまだまだ少なく,Yutakaではマンガ家になった卒業生によるテキスト(写真)が使われている。グループ内の私立高等専門学校「Eurasiam(ユーラジアム)」は日本,フランスの両方で認められる学士のほか2015年10月より日本人学生を対象とした国際経営マスター(修士)課程を新設している。

YUTAKAを訪問するとスタッフがマンガのコースについて説明してくれた。写真は使っている教科書
  • エスパスジャポン
    1974年フランス発の日本語ミニコミを創刊し,パリの日本語無料新聞OVNIや日本カルチャー情報誌ZOOM JAPONを発行しているエディシオン・イリフネ社が運営する文化交流スペース。創設者の小沢君江さんにお話を伺った。Espace Japonではワインとフランス語の講座,日本語教室のほか,料理教室,生け花講座などが開催されており,中には漫画の描き方講座もある。

(左)フランス発の日本語ミニコミ誌を74年に創刊した創設者の小沢君江さん。現在のように日本への関心が高まるずっと以前からメディアを立ち上げた小沢さんはとってもパワフルな方 (右)エスパスジャポンでは各種習い事教室のほかにフランス在住の日本人向けて雑誌や書籍を読むことができる貴重なスペースを提供している

グローバルな文化産業を目指して

こんなに大きな展示会が開催され,それに付随するビジネスが存在するほど,パリのマンガ・アニメ市場は成熟しているといえる。それはつまり,こうしたビジネスに携わる人々が人材として必要であるということだ。日本に興味を持ち,好きなことの延長でコンテンツ産業に従事することができる人たちもいることだろう。しかし,同人ブースで「ネットでの販売はしているか?」と聞くと,していないとの返事が返ってくることも少なくなく,「趣味で活動していて仕事は別」という人たちが主流のようだ。日本のアニメ産業が豆腐業界より小さいという残念で厳しい現実はあるが,その一方で,IP化やビジネスモデル化を図ることができれば,まだまだ成長の余地はある。語学学校がこぞってつくったマンガのコースは人気のようだが,そのITやビジネスモデルという点で教育機関はフランス国内に充実しているわけではない。こうした局面から,新の国際人として活躍できる,地域のコミュニティをグローバルで考え,それをビジネス化していくような人材は今後求められるに違いない。インターネットを武器にコンテンツ産業を力づけ飛躍する,こんな未来が描けるのではないだろうか。

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田中 恵子
Keiko Tanaka
  • 京都情報大学院大学 東京サテライト助教

上記の肩書・経歴等はアキューム24号発刊当時のものです。