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Accumu Vol.5

超新星とその残骸

京都コンピュータ学院講師

京都大学理学博士

伊藤 裕

恒星の中には,その一生の最後に大爆発をおこして超新星となるものがある。

超新星は天空に突然現れ,数力月かかって徐々に暗くなってゆく。

超新星の爆発によって,恒星の内部で合成された元素が周りの空間にまき散らされ,宇宙の元素組成が変えられてゆく。

歴史的超新星

図1

超新星は毎年数十個発見される。その明るさは太陽の数億倍~百億倍にも達するのだが,ほとんどは遠い銀河に出現するので望遠鏡を使わないと見ることはできない。しかし,まだ望遠鏡がなかった時代の文書には,突然天空に現れてやがて消えていった星に関する記録があり,それらの星の中には我々の銀河に出現した超新星とおぼしきものがある。例えば,藤原定家の「明月記」には,「後冷泉院天喜二年四月中旬以降丑時,客星出觜參度,見東方,孛天關星,大如歳星」という記事が見える。「1054年に牡牛座に新しい星が現れて木星程に見えた」というのである(ただし定家自身が目撃したわけではない)。初めのうちは昼間でも見えたという。勿論,このような記述だけではそれが超新星であったとは言えない。しかし,この星が現れた牡牛座の位置には,現在図1に示すようなガス星雲(かに星雲と呼ばれる)があり,その姿は年々大きくなっているのである。大きくなる割合から昔の姿を逆算すると,ちょうど星が現れたとされる年の頃に一点に収斂する。さらに,光のドップラー効果を利用すると,かに星雲が膨張する速さが毎秒1500kmと求められるが,これと天空上で広がる見かけの速さから,その距離が約6000光年であることが導かれる。そこで,その距離にあって昼間でも見えるほど明るい星の正体を考えると,それはありきたりの星ではなく,超新星以外にはあり得ないのである。図1に写っているのは,爆発してから900年あまりを経た星の破片なのである。同様にして超新星であったと推定されているいくつかの例を表1に示す。これらは歴史的超新星と呼ばれる。

表1

歴史的超新星の個性

図2

歴史的超新星の現在の姿にはそれぞれ個性がある。例えば,1572年の超新星(チコの超新星とも呼ばれる)の辺りを写真に撮っても,星の破片らしきものは非常に淡くしか写らない。違いはX線で撮った写真にも現れる。X線で見たかに星雲の姿が図1の左下部に示されている。内部が詰まった楕円のような形が見え,その横に点源がある。一方,図2はチコの超新星のX線写真である。中空の殻のような形が見える。このような違いは,超新星爆発の様子自体に違いがあったことを示唆している。

超新星の型

爆発直後の超新星は見かけが小さ過ぎて,その姿をとらえることはできない。従って,その性質を調べるには,その全体が放つ光など電磁波の特徴を分析する以外にない。例えば,輻射・吸収されやすい光の波長は元素によって異なるので,光を波長に分けたもの(スペクトルと呼ばれる)において,特に強かったり弱かったりする光の波長を調べることによって,光源に存在する元素を知ることができる。爆発直後の超新星は,その光のスペクトルに水素元素の存在を示す兆候が見られるかどうかで分類される。見られないものをI型超新星,見られるものをII型超新星という。二つの型はほぼ同じ頻度で発見される。また,I型とII型では,爆発後の明るさの変化のようすも異なっている。この性質を利用して,かに星雲になった超新星はII型,チコの超新星はI型であったと推定されている。

超新星になる星

では,どういう星が超新星になるのであろうか? まずI型超新星であるが,水素は宇宙で最も多く存在する元素であるから,それが存在しないI型超新星というのは極めて異常な星と言わねばならない。生まれながらに水素がなかったとは考えにくい。恒星は星と星の間に漂う気体(星間気体と呼ばれる)から誕生するが,星間気体の主成分は水素だからである(ちなみに,地球型惑星の主成分は水素ではないが,これは水素をあまり含まない星間塵から誕生したためである)。I型超新星になった星の水素は,その一生の間に失われたはずである。

恒星の内部では水素がヘリウムに変わる原子核融合反応がおこっているから,水素は徐々に減ってゆく。しかし,この過程がおこるのは星の中心部だけである。水素の核融合には1000万度以上の温度が必要であるが,そのような高い温度は星の重みで強く圧縮された中心部でしか実現されないからである。もし,やかんでお湯を沸かすときのように対流がおこって,中心部と外層部の間で物質が混ざれば,外層部の水素も中心部へ運ばれてそこで融合し得るけれども,この効果はあまり重要でないことがわかっている。

外層部の水素がなくなるのは,外層自体がそっくり失われてしまうからである。多くの恒星で,その身を細らせる程に強い物質の流出(恒星風と呼ばれる)が観測されている。恒星風が吹く機構はまだよくわかっていないが,ともかく,それによって外層が失われてしまい,核反応で水素が枯渇した中心部が露出するわけである。

質量が太陽の数倍以上の星では,この露出した中心部が重く,そこでの温度はヘリウムが核融合できるだけでなく,ヘリウムからできる炭素や酸素なども核融合できるに十分な高さである。そのような場合,原子核反応はやがて暴走してI型超新星爆発に至るものと考えられている。

一方,太陽のような比較的低質量の星では,露出した中心部が軽く,そのために原子核反心はやがて停止してしまう。これでは,超新星爆発のような劇的な現象はおこらない。ところが,恒星の約半数は2個の星が万有引力でペアーになった連星系を形成している。連星系では,相手の星から物質が降ってくることがあり,その重みで中心の温度が上がり,原子核反応の焼けぼっくいに火がついてI型超新星爆発に至るとする説がある。

質量が大きい星で,もし恒星風がそれほど強くなく,水素を主成分とする外層部がまだ残っている間に爆発がおこれば,それはII型超新星になる。恒星風は明るい星ほど強い傾向にあるが,明るい星は一般に質量が大きい。従って,質量が非常に大きい星は上で述べたようにI型になり,ある程度大きい星はII型になるのであろう。ただし,これは単独星の場合である。連星の場合には,恒星風に加えて星の間での質量交換によっても星の外層がはぎ取られ得る(または逆に増え得る)ので,事態はもっと複雑である。

超新星の残骸

超新星の破片は毎秒数千kmもの速さで周囲に飛び散り,星間気体と衝突する。衝突の現場では膨張運動のエネルギーの一部がX線から電波にわたる電磁波のエネルギーに変換される。図2に示されたチコの超新星のX線は,このようにして輻射されている。

一方,大質量星が爆発した場合には,中心付近の物質は外へ逃げられず,中心へ向かって陥没して中性子星という高密度星を形成することが多い。中性子星は,質量は太陽と同じ位であるが,大きさは20km程しかない。物質があまりにも密に詰め込まれるので,原子核外の電子が核内に押し込められ,その電子と陽子が合体して中性子になっている。そのような原子核は不安定で壊れてしまう。

中性子星はもとの星の自転運動を引き継ぐが,その自転速度は小さくなった分だけ高速である。フィギュアスケートで腕を縮めると回転が速くなるのと同じである。中性子星はこの回転運動のエネルギーを使って,宇宙線と呼ばれる高エネルギー粒子を加速する。宇宙線は周りの空間へ流れ出し,電磁波を輻射する。図1に示されたかに星雲の電波,X線,光(右下部)の輻射は,このような過程によるものである。X線写真に見られる点源が中性子星である。

星間気体の重元素量の増加

図3

超新星の破片には恒星の内部で合成された比較的重い元素が含まれている。その証拠は例えば図3に示されたチコの超新星のX線スペクトルに現れている。このスペクトルには,比較的なだらかに変化する成分(連続輻射と呼ばれる)と,その上に乗った細く盛り上がった成分(線輻射と呼ばれる)が見られる。線輻射はけい素,硫黄,鉄などの元素によるものであり,その強度からこれらの元素の存在量が計算できる。その結果は宇宙の平均的な値よりもかなり高く,これらの元素の大部分が星の中で合成されたものであることを示している。

星の中で合成された元素をたくさん含んだ超新星の破片は,やがて星間気体と混ざり合う。多くの超新星が次々に爆発することによって,星間気体の重元素量は徐々に増えてゆく。このため,星間気体から生まれる星は新しいものほど重元素量の割合が多いことになる。宇宙の物質は,恒星と星間気体の間を循環しながらその重元素量を徐々に増大させてゆくのである。我々の体を構成している元素も,そのような循環を何回か経て,今から46億年前に太陽系の母体に取り込まれたものである。我々の体の中には宇宙の歴史が凝縮されているのである。