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Accumu Vol.11

第5回JAHOU集会を終えて

日本ハンズオンユニバース協会 事務局 川井 和彦

第5回JAHOU集会
写真1

「真夏の京都は暑いですよぉ~」の声の通り,8月2日の京都は気温が38度を超えるたいへん暑い日でした。そんな暑さをものともせず,京都駅前校6階ホールでは,別の意味で大変熱い1日をすごさせていただきました。こちらのページをお借りして,8月2日に開催しました「第5回JAHOU集会」の報告をさせていただきます。

日本ハンズオンユニバース協会

『JAHOU(「じゃほう」と読みます)』とは,聞き慣れない言葉だと思いますので,まずはその紹介をさせていただきます。

JAHOUとは,Japan association for Hands-On Universe の略称で,正式名を『日本ハンズオンユニバース協会』といいます。

ハンズ・オン・ユニバース(Hands-On Universe,以下HOUと記します)は,アメリカを中心に1991年から始まったコンピュータネットワークを用いた高校生向けの科学教育プログラムです。このプログラムでは,七つの章にわかれたワークブックと,画像処理ソフトウェアを用いて,天体画像の解析を行います。天体画像は遠隔地の本格的な天体観測用望遠鏡で撮影され,インターネットを通じて教室のコンピュータにダウンロードされます。課題のそれぞれについて作業しているうちに,幾何や三角関数,対数といった数学,ケプラーの法則などの物理,星の進化や星の明るさの観測方法などの天文学,そしてコンピュータの使い方などが自然に身につくように工夫がなされています。また,インターネットを通じて海外の学校と超新星サーチ,小惑星サーチなどの共同作業を通じて,国境を越えた共同学習も進めています。これらを通じて,天文のみならず科学・数学などに対する子どもたちの総合的理解を主目的としています。

日本では,戎崎 俊一博士(理化学研究所)らが中心となって,このHOUの活動に参加しようという動きが1996年から始まり,1997年に日本ハンズオンユニバース協会を設立しました。私たち日本ハンズオンユニバース協会では,コンピュータネットワークを使った新たな教育方法の開発,実践を目指して活動を行っています。日本ハンズオンユニバース協会の活動は,科学研究と理科教育とインターネット,この三つの接点にあります。

日本ハンズオンユニバース協会では,私たちの活動を広く紹介するとともに,会員,非会員を問わず情報交換などを行う研究会としてJAHOU集会を行ってまいりました。今回は「コンピュータを使った天文教育」をテーマとして,第五回JAHOU集会を開催いたしました。

第五回JAHOU集会

第五回JAHOU集会
図1

第五回JAHOU集会では,JAHOUの紹介から始まり(写真1),(1)JAHOUの活動報告(2)教育とコンピュータ(3)実践報告(4)リモート望遠鏡 の四つのセッションを行い(図1:プログラム参照),それぞれについて実践報告を中心に発表が行われました。予定終了時刻の午後六時を一時間近くオーバーするほど各テーマについて質問や意見交換が行われ,発表者,参加者ともに得るものが多くあったのではないかと思います。

それぞれの発表を詳しく紹介することは本稿ではできませんが,個々の発表について概略を報告させていただきます。

(1)JAHOUの活動報告

HOUの二つの国際会議,TRA会議とGHOUの報告がありました。ここでは,新しいカリキュラムや指導法,国際共同プロジェクトなどについて意見交換が行われ,日本からも毎年参加しています。今回報告があったジュピタープロジェクトも,GHOUの場で提案がなされたプロジェクトです。

ジュピタープロジェクトは,2000年12月1~7日を「木星週間」と位置づけ,HOUに参加している各国で木星を撮影し,木星の衛星が木星の周りを回る様子を,継続的に観測し,教材を作ろうという試みでした。スウェーデン,フィンランド,ドイツ,フランス,アメリカ,そして日本のメンバーがプロジェクトに参加しました。結果は,JAHOUのWebページで近々公開される予定です。スペクトルカリキュラムは,JAHOUのメンバーが作っている独自のカリキュラムです。分光学について学べるカリキュラムを開発しており,まもなく第一版が完成する予定です。

(2)教育とコンピュータ

コンピュータ教育の専門学校として,日本の草分け的存在である京都コンピュータ学院の方に,天文教材ソフトについてと,現在行われているCG教育について発表を行っていただきました。独自に開発された天文教材ソフトには様々な工夫があり,目的に添った教材ソフトの優位性を感じました。CG教育では,未来のクリエイターたちがどのような取り組みをされているのかを垣間見ることができました。

(3)実践報告

実践報告のセッションでは,科学館などの社会教育施設や学校で行われている天文教育活動の報告をしていただきました。

社会教育施設での実践報告として,JAHOU会員が講師を担当した「JAHOU教室」の良いところ難しいところ,アクトパル宇治の方からは,『宇宙のイメージをどのように持ってもらうのか』という根元的なテーマで実物に近い銀河模型などを用いて行っている活動を紹介していただきました。学校で行われている事例として,奈良県立登美ケ丘高等学校の方には,1999年度から始まった「宇宙の観測」という科目の先駆的な取り組みについて,枚方市立山田東小学校の方には,天文台と小学校をインターネットで結んで行った連携授業の実践報告をしていただきました。

(4)リモート望遠鏡
北の丸望遠鏡
写真2

今回のJAHOU集会では,初めてリモート望遠鏡のセッションが設けられました。大阪教育大学,慶應義塾高等学校の実践報告,科学技術館屋上に設置されている写真2の望遠鏡(以下,北の丸望遠鏡と記す)のリモート操作デモ,今後への取り組みとしてリモート望遠鏡での分光観測,次世代ユーザインターフェイスについての発表がありました。遠隔地からリモート操作ができる望遠鏡が次第に増えてきており,それぞれが教育現場で使われている現状を聴くと,今後の天文教育の一つのあり方が見えてきたような気がしたのは筆者だけではなかったと思います。

手前味噌で恐縮ですが,北の丸望遠鏡について少し紹介させていただきます。北の丸望遠鏡は,Webから撮影したい天体をリクエストし,望遠鏡が撮影を自動で行うロボット観測と,インターネットを通じてリアルタイムに観測を行うリモート観測の二つのモードがあります。この望遠鏡はJAHOUが主体となって運用することになっており,HOUの活動に参加している中学生や高校生が観測を行うことや,国際的な共同観測が行われることが期待されています。2002年4月から本格的に稼働する予定で,本稿執筆中は撮影の基礎データとなる情報収集や,利用ガイドライン,マニュアル作りを行っている最中です。

おわりに

第五回JAHOU集会の概要を報告させていただきましたが,天文教育の様々な試みや実践について興味を持っていただければ幸いです。

JAHOUの活動は,当初はアメリカで開発されたカリキュラムを日本で実践することから始めましたが,だんだんとすそ野が広がってきているのを実感しています。今後,天文教育にとどまらず様々な教育活動にかかわっている方々と交流し,活動の機会が増えていくことを願っています。

最後になりましたが,直前の依頼にもかかわらず快くホールを貸して下さった京都コンピュータ学院のみなさま,色々と手配までしていただいた作花様,有本様,当日のネットワーク設定,会場設備のコントロールを行っていただいたみなさま,報告の機会をいただきました編集部のみなさま,本当にありがとうございました。また,発表していただいたみなさま,参加していただいたみなさま,この場をお借りしてお礼を述べさせていただきます。ありがとうございました。

●参考URL

http://jahou.riken.go.jp/

http://hou.lbl.gov/

●問い合わせ先

JAHOU事務局 info@jahou.riken.go.jp

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川井 和彦
Kazuhiko Kawai
  • 東京理科大学理学部2部物理学科卒業後,私立大学職員,高校教師,科学館職員,天文台職員を経て,現在,理化学研究所情報基盤研究部計算科学技術推進室研究協力員
  • 超電導体検出器の開発研究と教育での情報技術利用に携わる

上記の肩書・経歴等はアキューム11号発刊当時のものです。