トップ » バックナンバー » Vol.2 » マルチスペクトル衛星画像のコンピュータ解析による雲の研究

Accumu Vol.2

マルチスペクトル衛星画像のコンピュータ解析による雲の研究

NASA大気科学研究所・研究部長 Dr.Albert Arking ●アルバート・アーキング

川田 剛之 訳

雲と地球の温暖化

化石燃料(石炭や石油)を燃やす事によって生じる二酸化炭素や産業・農業活動に伴って生じる希ガス(メタンや塩素・フッ素系炭化物ガス)の大気中への放出が地球の著しい温暖化を引き起こす可能性について世界的な関心が高まっている。二酸化炭素の量が現在の2倍になるのは,過去1000年間に起きた地球の平均気温のどんな変化をもしのぐ規模の気温上昇が起きる事を気候のモデル計算は警告している。しかしながら,その気温変化の大きさについてはまだ極めて不確定である。なぜなら,モデルが異なると結果も異なるからである。モデルが一致しない主な原因は雲の存在にあると考えられる。

雲は気候システムのエネルギー・バランスにおいて極めて重要な役割を果たしている。雲は入射太陽輻射を宇宙空間に反射する事で太陽の地球加熱に強く影響しており,さらに地球表面からの熱赤外放射を雲底でさえぎり,雲頂からより低温で再放出を行なう事で気候システムの熱的冷却にも強い影響を与えている。雲による熱赤外放射の減少は放射強度が温度の4乗に比例するというステファン・ボルツマン法則の結果生じるものである。雲による加熱効果と冷却効果のバランスは雲量(雲が地球を覆う割合),雲の層厚(単位面積当りの水蒸気の量)及び雲温度(雲の高度に関係している)によって大部分は決まってしまう。しかし又,雲粒子の位相(水と氷の割合)やその粒径(サイズが小さいと反射は高くなる)といった雲の光学的性質によっても大きな影響を持っている。

図1

気候がどの程度,雲パラメータの値に敏感かを説明するのに図1のグラフを示す。これは上層雲と中・下層雲とに分けて,雲量を現在値より10%増加させた時,3つの異なる大気レベルにおける年平均気温の変化を緯度を横軸にして示したものである。中・下層雲の増加は全体として冷却効果を生じさせている。その理由は雲の厚さが厚くなる為,太陽輻射をより反射するが,雲の高度はあまり高くないので,地表と雲頂高度での温度差はそれ程なく,熱赤外放射の遮断効果は太陽輻射に対する効果に比べて小さいからである。これに対して,高層雲を増加させても高層雲は薄い為,反射率は低く,太陽輻射を遮断する効果は小さい。しかし地表と高々度の雲頂との温度差は大きく熱赤外放射を良く遮断する為,高層雲の増加は気候システムに全体として暖房効果をもたらす事になる。

気候システムに例えば二酸化炭素の量を増加させるといった擾乱の効果をモデル化する時,それに対してどの様に異なるタイプの雲の量を入れたり,雲の放射特性を変化させたら良いかを知る事は重要である。残念ながら現在,私達の雲についての知識・情報は欠けており,雲を正しくモデル化する事はできていない。

私達はいつも雲を見ているが,しかし雲についての十分な定量的情報を持ってはいないのである。

衛星の可視及び赤外画像の利用

雲の成長,消滅プロセスや放射特性といった事を理解する為に衛星による国際雲気候学プロジェクト(ISCCP)が世界気候研究プログラムの監督のもとに組織され,ISCCPは1983年7月以来,静止衛星(米国のGOES衛生2個,日本のGMS衛星,ヨーロッパのMetsat衛星,インドのInset衛星)や極軌道NOAA気象衛星から可視及び熱赤外画像を受けて,常時雲のモニタリングを続けている。

観測チャンネルは可視チャンネルは0.65マイクロン,熱赤外チャンネルは10-12マイクロン帯にあり,この2つのチャンネルは上記の衛星に共通のチャンネルでの観測放射量を計算機処理する事によって雲量,雲頂高度,雲の厚さ等の諸量を推定するのである。

図2

図2にISCCPデータの解析結果を示す。これはISCCPによって作成された1985年5月の世界の雲量分析を図示したものであるが,大部分が砂漠である北アフリカ上空の雲の量の少なさとアジア大陸上空の雲量の多さに注目すべきである。

衛星が観測する放射量から雲量に関するパラメータを抽出するには次の3ステップが必要である。

1. 背景領域の確立,即ち,雲の存在しない時の放射量レベルの決定

2. 雲の信号レベルの確立,即ち,雲領域に対する放射量レベルの決定

3. 雲パラメータによるステップ1.及び2.から得られた背景放射量レベルと雲領域放射量レベルの解釈

雲の存在しない背景領域の抽出は画像内の画素濃度値が可視で比較的暗く,熱赤外で明るい画素を捜す事によって出来る。この事は背景領域は陸と海表面である事を示している。陸や海表面では雲に比べて反射率は低く,その温度は高い事から推察される。熱赤外では,背景領域の決定は表面温度に関する気象データから出来る。可視域では雲のない陸地の反射率は,数日に渡る画像の統計解析から推定可能であり,異なる季節の異なる地域の反射率を得る事が出来る。雲の放射量レベルは背景領域に比べて,可視域で高く,熱赤外で低いので,前もって選んだ閾値により決定できる。雲量は放射量レベル値が閾値を超える画素をカウントする事により得る事が出来,また雲頂温度と雲の厚さは背景による影響を考慮して,雲の反射率と放射率を2つのチャンネルの放射量に関連づける理論的モデルを使う事によって得る事が出来る。

ISCCPプロジェクトから得られるデータは地上観測から得られるどんなデータよりも,地球全体をカバーしている点と放射量を観測している事によって,雲の厚さや雲量温度に関して定量的情報が得られる点で,はるかに優れている。しかし地球表面が雲や氷に被われている時は多少困難さが出てくると予想でき,又,これらのデータは雲粒子の粒径や位相に関しての情報を持っていない。粒径や位相といったパラメータは前にも述べたが,放射過程に関しての雲の影響を決定するのに重要な物理量である。これらの問題点を解決するには可視と熱赤外の間にある近赤外域のチャンネルが有効である事が解っている。極軌道気象衛星 NOAAが近赤外を持つが静止衛星はすべてこのチャンネルを搭載していない。しかしこれら近赤外のチャンネルは重要であり雲研究において実験的に利用されているので以下で説明する事にする。

雲と地表面特徴との識別

氷に被われた海域や陸地が雪に被われている時は可視域での雲の検出はコントラストが不十分になるので困難になる。熱赤外域での放射量レベル値による方法は雲検出に使用できそうであるが,極地方では高さとともに温度が低下するので,温度だけで雲と地表の識別は難しくなる。この様な場合,可視の赤波長より長い波長にして0.7マイクロンを超える近赤外チャンネルが有効になる。

波長が長くなると,地表を被う雪や氷の反射率は急激に低下をきたす事は良く知られている。この効果は主として粒径サイズによるものである。波長とともに粒径が大きければ大きい程,その反射率の低下は著しくなる。雲の粒子のサイズは10マイクロンから100マイクロンの範囲にあるが,雪の粒子のサイズは数百マイクロンから数ミリメートルと大きい。通常の水滴から構成される雲や小さい氷結晶からなる雲は波長が長くなっても,その反射率はほとんど低下しない。しかし,巻雲の様にもっとサイズの大きい氷結晶から出来ている雲の反射率は少しだけ低下を示す。これに対して,雪は新雪であっても,古い雪(部分的に融けたり,再結晶を経ているもの)であっても,又氷も含め,いずれも粒子の粒径サイズは大きいので,波長が長いと著しい反射率の低下を示す。水域は可視でも暗いが,近赤外ではもっと暗く見え,裸地や,植性は,これに反し,可視より近赤外の方が明るく見えるという特性から,雲とその他の地表被覆物体(氷,雪,水域,さらに植性と裸地)とを区別する事が出来る。即ち,上記の事より,可視と近赤外の2つのチャンネルの明るさを比較する事によって,これらのチャンネル間で明るさの変化をほとんど示さないものが雲であると識別する事ができるのである。

気象衛星NOAAに搭載された改良型高分解ラジオメータ(AVHRR)は0.63マイクロンの可視チャンネルの外に,0.85マイクロンを中心波長にする近赤外チャンネルも持っている。

図3

雪や氷と雲を区別する方法を図解する為に,北極地帯を対象とする1984年7月1日から7月6日までの6枚のAVHRRカラー合成画像を図3に示す。画像の色は真の色ではなく,モニターの青(Blue),緑(Green),赤(Red)の色に,それぞれ可視チャンネル,近赤外チャンネルの明るさ,及びその組み合わせによる明るさを割当てて,R・G・Bカラー合成で表示したものである。可視チャンネルの反射光の明るさをRv,近赤外チャンネルのそれをRn とした時の色割当ては以下の様に行なった。

Rv         青(Blue)

Rn         緑(Green)

Rv+3(Rn-Rv) 赤(Red)

モニターの赤の色は可視チャンネルと近赤外チャンネルでの明るさの差異(又は比)を表しており,雪や氷の様にRn/Rvの値が小さい時は赤のレベルは減少し,これらの対象物体は青味(緑青)がかった色合いになる。陸域の様にRn/Rvの値が大きいと,赤味がかった色合いになってくる。どのシーンにおいても,北極は画像の下部左に位置し,グリニッチ子午線は水平方向に走っている。画像の実スケールは3000km×3000kmの範囲をカバーしている。7月1日の画像に関して述べると,それ程厚くない雲が左側の北極にある永久氷原を横切り,画像中央部に存在する海洋上空にかかっている。氷結晶から成る厚い雲が画像上部右のソ連上空にある。画像下部右に位置するスウェーデンは薄雲を通して,その一部は見えるが,雲で大部分が良く見えていない。画像中の非常に明るい青色の領域は雲で被われた島々であり,その事は可視チャンネルでは雲より明るいので推測できる。これらの島の中にはソ連領であるノバヤ・ゼムリャ島(画像中では細長く湾曲した形状で中央部少し左上方)やスピッツベルゲン(下半分が雲で部分的にかくされている群島)などがある。画像中の下部中央にぼけた少し青味がかった雲(位置としては極冠の丁度南,そしてスピッツベルゲンを一部囲み込んでいる)は氷粒子で構成されたものである事を指摘しておきたい。この雲は,この後で説明するが,3.7マイクロンチャンネルでの輝度温度が海表面の輝度温度とほぼ同じである事を挙げる事が出来る。

これら一連の画像を使う事により,私達は雲と雪や氷に被われた地球表面とが識別可能となる。即ち,青味がかった領域,赤味がかった領域はそれぞれ,雪氷に被われた所と陸地に対応し,これらの領域の位置は不変であるが,雲に対応する白色領域は日々その位置を変えている事により,雲と雪氷とを区別できる事を示している。

これらの結果が示す事は,近赤外チャンネルの情報を加味する事により雲とその他の地表対象物体の区別が容易になるという事である。

粒径と位相に関する情報抽出

可視域より少し長い波長である近赤外チャンネルが粒径範囲が10マイクロン-100マイクロンである雲粒子と300マイクロン-3000マイクロンの範囲にある雪や氷粒子とを区別出来るのなら,さらに波長を長くした赤外チャンネルを使えばどの様な事が分かるのだろうか。この事に関して言うと,AVHRR のもう一つのチャンネルである3.7マイクロンチャンネルを利用すると水滴から出来ている雲と氷粒子から出来ている雲との識別が可能である。雲の反射率は粒径と位相に依存し,氷粒子が多く粒径が大きい程,反射率は低くなる事による。

3.7マイクロンチャンネルの利用で注意する必要があるのは,このチャンネルでは放射量は太陽の反射光成分と熱赤外放射成分の2成分があるという事実である。熱赤外放射に関しては,その放射強度は温度と波長の関数であるブランク法則で与えられ,これにより11マイクロンチャンネルでの観測放射量を輝度温度に変換できる。次にこの温度を使い,再びプランク法則により,3.7マイクロンでの放射量に変換し,この量を3.7マイクロンチャンネルでの観測放射量から引算すると,このチャンネルでの太陽反射光成分を得る事が出来る。そしてこの得られた反射光による放射量を入射太陽光量で割る事により,反射率が求まる事になる。

図4

.7マイクロンチャンネルの含む情報の有効性を示す例として図4を考えよう。左の画像は前述したのと同様の0.65マイクロンと0.85マイクロンの2チャンネル合成カラー画像である。真中の画像は3.7マイクロンチャンネルから作成した反射率画像である。右の画像は11マイクロンチャンネルの輝度温度画像で,温度が高い所を暗く,低い温度の所を白くして作成したものである。シーンは1987年5月20日のソ連西部のもので,黒海の北部が画像下部に見えている。

図4で特に注目する点は,3枚の画像における雲の特徴の違いである。画像下部中央には積乱雲があり,厚く高々度にまで発達している。この雲は真中の画像では暗く右の画像では非常に白く見えているので(即ち,3.7マイクロンでは低い反射率であり,11マイクロンでは非常な低温であるので),雲の上部は大きな粒径サイズの氷粒子から成っており,又低温なのでその雲頂高度は高いという事が言える。もっとはっきり分かるのは,画像上部中央にある巻雲であり,この雲は左側中央部から右上角に拡がっている低高度の雲塊の上にかかっている。この雲塊の高度が低い事は11マイクロンの画像中に灰色に見えている事から解り,又3.7マイクロン画像では高い反射率を示しているので,小さな氷粒子から構成されている事も解る。これに対し,その上にある巻雲は11マイクロンで白色に見えているので,低音であり,従って雲の高度は高く,3.7マイクロンでは暗く見えるので,反射率は低く,従って大きな氷粒子から構成されている雲である推察できる。

結論

雲は気候システムの輻射エネルギーのバランスに強いインパクトを与えており,雲の放射特性やその成長・消滅過程を研究し,理解する事は二酸化炭素や他の希ガスの量を増加させる時に生じる気候変化を正しくモデル化しようとする場合,不可欠なものである。現時点では,雲の存在が気候変動に正のフィードバック(擾乱を増大させる方向)として作用するのか,まだ良く解っていない。雲の研究の為に,世界気候研究プログラムはISCCPプロジェクトが1983年7月に発足し,可視・熱赤外の2チャンネルで6個の静止衛星,2個の極軌道衛星から画像データを受信し,常時雲をモニタリングしており,同時に雲量,雲温度,雲の厚さといった物理量のデータを供給している。

ISCCPでは2チャンネルしかデータを使用していないが,その他のチャンネルを利用する事により,雲パラメータ推定の精度向上や雲粒子のサイズや位相といった他のパラメータの推定も可能である事についても,ここでは説明した。その様なチャンネルをNOAA衛星のAVHRRラジオメータは近赤外で2チャンネル持っており,これらの2チャンネルに含まれている情報を計算機画像処理する事によって,雲と雪・氷との識別,又氷結晶雲と水滴雲との識別は可能であり,これの方法についてもここで解説した。

ここで述べたチャンネルはすべて大気が比較的吸収のない透明である波長帯のものであるが,大気が部分的に吸収を示す近赤外域の他のチャンネルからも新しい情報を得る事は可能である。航空機に載せたラジオメータによる実験では,酸素や水蒸気による吸収帯のある複数チャンネルを使って,より正確な雲パラメータの抽出が出来る事が示されている。これらのチャンネルを含めたMODISと名付けられたスピクトルラジオメータが開発され,地球観測システム(EOS)で運用される計画である。このEOSで運用される計画は米国,日本,ヨーロッパが国際協力して打ち上げる極軌道プラットフォームであり,地球観測の為の各種の計測機器を装備する予定となっている。

この著者の他の記事を読む
川田 剛之
Hiroyuki Kawata
  • 昭和21年1月7日生まれ
  • 昭和43年京都大学理学部卒
  • 昭和49年マサチューセッツ大学大学院博士課程修了Ph.D.
  • 昭和53年京都大学理学博士
  • 昭和49年~51年NASAゴダード研究所研究員
  • 昭和51年金沢工業大学情報科学研究所助教授
  • 昭和56年同教授
  • 昭和62年同大学情報科学研究所長
  • IEEE会員,IAU会員、計測自動制御学会,日本リモートセンシング学会会員など

上記の肩書・経歴等はアキューム2号発刊当時のものです。