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Accumu Vol.7-8

新惑星系の発見

京都コンピュータ学院鴨川校校長

京都大学理学博士/京都大学理学部講師

作花 一志

古くから期待されていた太陽系以外の惑星系がついに発見された。

その発見手法は非常にオーソドックスな方法で今なお続々と見つかっている。

新惑星はどこに

宇宙とは空間的にも時間的にもありとあらゆるものを全てを包含するものとされている。それならわれわれ人間の考えるものはこの広い宇宙のどこかにきっと存在するだろう。例えばUFOの存在は宇宙人の乗り物という期待を込めて過去何回も報じられてきた。その都度,あれは車のヘッドライトだ,これは気球だ,飛行機だ・・・と訂正されながらも完全に否定はされていない。古くは,ピラミッドは宇宙人が来訪する際の着地の目印として作られたと考えている人もいるし,旧約聖書のエゼキエル書にもUFOを想わせる記述がある。また今世紀前半には「たこ」のような火星人の姿が定着していた。実際,この広い宇宙の中で地球だけに生命が発生し,私たち人類だけが唯一の高等生命と考える方が不自然である。いやむしろ不遜といった方が適切かも知れない。コペルニクスによってわが地球は特別な地位から引き下ろされ,宇宙の中心どころか,太陽の周りを回る目だたない一惑星に過ぎないことを思い知らされたはずだ。その太陽もまた特別な星ではない。大きくも小さくもなく,重くも軽くもなく,古くも若くもなく,いわば中肉中背の目だたない中年の星である。広い宇宙の中に太陽のような星は無数にある。その中に惑星を持っているものがあって,私たちより優れた生命体があってもなんら不思議はない。

惑星を探すのは大変だ。わが太陽系で最大の惑星である木星でも太陽より20等級も暗いので,どんな大きな望遠鏡を使っても他の星に属する惑星系を直接見ることはできない。そこで惑星を持ちそうな候補星を選んでその運動を詳しく調べてみて,もし怪しい動きをしたらそれは「不可視伴星」のせいだとするという方法がとられた。近い恒星なら長期間観測していくとわずかに移動していくのがわかるはずだ。この固有運動を調べる方法で,これまで惑星の可能性が語られてきた星はいくつもあった。ケンタウルス座α星に次いで近い天体であるバーナード星がまず怪しい。天球上を蛇行しながら運動していることから,質量が木星よりやや大きいくらいの伴星の存在が考えられ,これは恒星としては小さ過ぎ惑星と言った方が適切だ。またはくちょう座61番星(61Cyg)は太陽よりやや小さな2つのオレンジ色の星からなる連星で,その片方の星に付随している暗い小さな星が木星の8倍の質量を持ち,主星の周りを約5年で公転しているという。その他にもエリダヌス座のε星(εEri),へびつかい座の70番星(70Oph),おおくま座のBD+36゜2147星(=ラランド21185)などが候補に挙げられた。しかしこれらは今日の詳しい観測では確認されておらず,むしろ否定的という。(ただ最近,BD+36゜2147星は周期8.5年と30年の2つ惑星を持っているらしいというニュースが入った。この星はM型の7等星で,以下に述べる星と違って太陽近傍で最大多数派に属する赤色矮星だ。太陽からの距離はわずか8光年,最も近い惑星系となる。)

1995年秋についに発見

ところが1995年の秋,ペガスス座51番星(51Peg)という,大きさ,重さ,色,温度,年齢,どれをとっても太陽とほとんど変わらず,これと言って取り柄のない平凡な星に惑星があるらしいというニュースが飛び込んできた。51Pegの視線速度を長期間追跡したところ,近づいたり遠ざかったりする周期的な変動が検出されたのだ。天体の運動は横方向(固有運動)より視線方向(視線速度)の方がずっと検出し易い。近づく光源は青い方に,遠ざかる光源は赤い方に波長がシフトするというドップラー効果によるものだ。51Pegは4.2日周期で,±50m/secも視線速度が変動する。それは伴星の重力のためと考えられるが,その伴星は暗過ぎて見えず,質量は木星の半分くらいでとても「星」とは言えない。これこそ待ちに待った惑星だ! 地球の場合に比べ公転周期はわずか1/86,親星からの距離はケプラーの第三法則より計算すると1/20しかない。これでは親星に近過ぎて表面温度は1000度を越すだろう。海は干上がり岩さえ溶けてしまい,こんな灼熱地獄には生物は到底棲めそうもない。この発見は,初めフランスの中型望遠鏡でなされたが,その直後アメリカの大望遠鏡で確認され,今や確かな情報のようだ。

この惑星に早くもベレロフォンという固有名が付けられた。この名前も他の星の場合と同じくギリシア神話に由来する。ペガススとは,英雄ペルセウスが魔女メドゥサの首を切り落としたときの血から生まれた翼のある天馬である。ペガススに乗った彼はエチオピアの浜で国王ケフェウスとカシオペアの娘アンドロメダが怪物くじらに襲われそうになっているところを救い,アンドロメダと結婚して故郷へ戻り,悪い王様を追放してめでたしめでたし・・・というのがペルセウス物語だが,この話には後日談がある。天に戻って飼われていたペガススに2度目に乗ったのがベレロフォンという若者である。彼はこの願いを知恵の女神アテナのおかげで果たし,ペガススにまたがり冒険の旅に出る。頭はライオン・胴は山羊・尻尾は龍,おまけに口から火を吹くという怪物キメラを退治したり,アマゾンの女兵隊と戦って勝利したり大活躍する。ところがその成功は神の加護によることをすっかり忘れ,慢心してしまった彼は,ペガススに乗って天に昇ろうとする。そのためついに大神ゼウスの怒りを買い,ペガススから落馬し地上へ墜落して,あえなく命を落とすというのだから,なにやら現代人の行動を象徴し警告しているようにも思える。

表 惑星を持つ星
恒星名dm MSpMsMpPa
太陽----26.74.79G2V1.00 111.95
51 Peg455.54.8G3V 10.474.2*0.05
70 Vir78 5.03.1G4V 6.6117*0.43
47 UMa465.1 4.4G0V2.41090*2.1
55 Cnc455.95.3G8V0.814.8*0.1
τ Boo624.53.2F7V1.23.93.3*0.05
BD+36゚ 21478.27.5010.50M2V0.983

    d・・・ 距離(光年)

    m・・・見かけの等級

    M・・・絶対等級

    Sp・・スペクトル型

    Ms・・星の質量(太陽値)

    Mp・・惑星の質量(木星値)

    P・・・公転周期(年 *印は日)

    a・・・軌道長半径(AU)

    なお太陽の惑星は木星

           1AU=1.5億km

その後ぞくぞくと

1996年になってから惑星を持つ星がさらに4個見つかった。うち3個は太陽のようなG型主系列星で,やはり視線速度の変化を測定して不可視伴星の質量を推定して得られた結論だ。おとめ座70番星(70Vir)の惑星はこれらの中では最大で木星の約7倍の質量を持ち,かなり扁平な楕円軌道を描く。親星からの距離は約4ヵ月の公転周期中大幅に変化するので寒暖差が激しいが,平均85度くらいという。この状態ではH2Oは水(湯?)になっている,とすると海があるかも知れない。海こそは生命誕生の場である。この惑星に大気が,海が,生命が・・・と期待するのは早過ぎるだろうか? しかしもしCO2の厚い雲による温室効果で海が干上がってしまってると,金星のような灼熱地獄になってしまう。またおおくま座47番星(47UMa)の惑星は木星の2倍くらいの重さで,約3年で親星の周りを回る。わが太陽系の木星によく似た状態である。ひょっとしてこの惑星の軌道の内側にもっと小さな惑星が存在していたら・・・これはもうわが太陽系そっくりではないか。かに座55番星(55Cnc)はこの中では最も低温の星だが,惑星の状態は51Pegとよく似ているようだ。さらにうしかい座τ星(τBoo)は,これまでのG型星よりやや明るく大きな星である。この星の周りを回る惑星の周期はわずか3.3日で,質量は木星の約4倍と算出された。この惑星から親星を見ると,地球から見た太陽に比べ約30倍も大きく,また1000倍以上のエネルギーを受けているだろう。

惑星系探しは始まったばかりであるが,今後続々見つかって,惑星系は当たり前のこととなるかも知れない。そして人類が地球外生命と会える日もそう遠くない将来かも知れない。

ベレロフォンとキメラ
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作花 一志
Kazuyuki Sakka
  • 京都情報大学院大学教授
  • 京都大学大学院理学研究科宇宙物理学専攻博士課程修了(宇宙物理学専攻)
  • 京都大学理学博士
    専門分野は古典文学,統計解析学。
  • 元京都大学理学部・総合人間学部講師,元京都コンピュータ学院鴨川校校長,元天文教育普及研究会編集委員長。

上記の肩書・経歴等はアキューム25号発刊当時のものです。