本学院の中国に対する海外協力事業は,中国の大学のコンピュータ寄贈事業から始め,最近では,中国留学生の学院への受け入れ,さらには対象とする中国でのコンピュータ人材の育成計画も本格的に実施されています。このような本学院の海外協力事業は中国コンピュータ教育の普及及び発展にとって,とても意義を持つことだと考えられます。本稿ではこのような海外協力事業と関係が有る中国のコンピュータ事業の現状及び発展について,筆者の知っている範囲で紹介したいと思います。
中国のコンピュータ事業はBasic言語の普及が盛んになった1980年代から始まって,最初の中国コンピュータ事業は80年代に実施された中国内部の政治,経済改革開放の波に乗って,80年代末期の政治事件天安門事件の壁に突き当たるまでの約10年間で著しく発展し続けたのであった。その成果としては,中国のシリコン・バレーと呼ばれる初めての電子産業開発区が北京で創立され,多数のコンピュータ技術会社が成立された。また,コンピュータ技術を普及するため,大学から小学校に至るコンピュータの授業が設置されたのであった。当時の中国では,初めてのコンピュータブームを迎えていたころであった。テレビや新聞等のマスコミでよく使われたため,子供でも知っている「電脳」という名前の広がりは,その証拠の一つとして考えられるだろう。
その後,天安門事件の影響を排除するのに,中国のコンピュータ事業は4,5年間がかかり,再び軌道に乗ったのは1994年だと考えられる。1994年,中国政府はコンピュータネットワークの発展を推進するため,様々なプロジェクトを実施し始めたのであった。北京では中関村地域(東京の秋葉原と考えられる中国の電気街)とアメリカのインターネット基幹ネットワークNSFNETとの直接接続を実現した。その後,北京を中心として,全国を覆い,アメリカ,日本及びヨーロッパ等と直接接続している複数基幹ネットワークの構築も発足したのであった。このような中国コンピュータネットワークの高速発展にともない,コンピュータは社会生活の各方面に浸透し始め,コンピュータの重要性も社会に著しく上昇し,中国のコンピュータ事業は第二回目のブーム期を迎えた。コンピュータが分からない人には仕事ができないという認識は,多くの中国の人に認められるのである。コンピュータの台数が現在,650万台を突破している急速発展の中国コンピュータ事業は,中国の総人口数と比べ,まだまだ巨大な潜在発展力を持っていることが分かるが,しかし,コンピュータ技術の普及及び発展は楽観的に考えることはできないだろう。
現在の中国では,パーソナルコンピュータが単なる子供の玩具ではなく,知能開発や仕事などに対する便利な道具だという認識は多くの人々に認められている。子供の教育には,幼児園や小学校の頃にコンピュータをマスターさせることは社会教育の常識になった。このような意識変化に伴い,北京,上海などの大都市の中心で,パソコンは多くの中国家庭の中に入ってきた。その他,コンピュータネットワークの普及とともに,コンピュータは情報を得るための必要な手段となり,社会生活の一部分と考えられる。従って,人間とコンピュータの間には,密接な関係ができたのである。代表的な中国のWWWプロバイダのホームページを開くと,“網上生活”,“網上暑假生活”などをタイトルとしているホームページが結構出ている。その意味は,“ネットワーク上で生活する”,“ネットワーク上で夏休みを暮らす”という意味を表す。社会には,“網巴”と呼ばれ,コーヒーやビールなどを飲みながら,インターネットするという店が沢山できたのである。“網”はインターネットやネットワークを表し,“巴”は“Bar”の意味を表示する。以下の写真は北京の電子技術開発区に在る“飛宇”と呼ばれる“網巴”の一つであり,インターネットの普及まで十分出来ていない中国には,人気があるのは分かるだろう。最近の3,4年間,網巴や電子郵件(電子メール)のような,新しいコンピュータ技術に関する中国語のコンピュータ専門用語は猛増しているのである。その中で面白い例を紹介すると,インターネットユーザの訳語“網民”である。筆者でもホームページ上で“網民意識”を最初に見たときは,何と不思議な単語だと思ってしまった。上の表は参照として,筆者が中国語のコンピュータ技術の典型用語をまとめたものである。
コンピュータネットワークの骨組みと見られる中国コンピュータ基幹ネットワークの構築は,1994年に開始された。1994年9月,第一番目の中国基幹ネットワーク,中国公用計算機互聯網(CHINANET)の構築が始まったのであった。CHINANETは中国の各直轄市,省会を連結する155Mbpsの寛帯域幅ネットワークをベースとし,全国地域の都市を覆い,複数の国際通信チャンネルの通信帯域幅は約300Mbpsであった。同年10月には全国教育機関に向けて第二番目の基幹ネットワーク,中国教育及び科研計算機網(CERNET)の構築も始まった。その後,全国の科学研究所をベースにしている中国科技網(CSTNET)及び中国金橋網(ChinaGBN)等の基幹ネットワークの構築は,次々に始められたのであった。1996年までに中国公用計算機互聯網,中国教育及び科研計算機網,中国科技網及び中国金橋網の4つが完工された。1996年2月に中国政府は中国コンピュータネットワークの管理規則,[中国計算機信息網絡国際互聯網管理規定]を実施した。1997年,上述の4つの中国基幹ネットワークは相互接続を実現したのであった。現在,中国聯通公用計算機互聯網絡(UNINET)を含め,中国全国で五つの基幹ネットワークが利用できる。各基幹ネットワークは世界の主要国のインターネットと直接に接続できた。日本との場合,中国科技網(CSTNET)が始まり,衛星通信等の技術を通しての直接接続が実現されたのであった。最近では,移動通信技術をベースとしている中国移動互聯網(CMNET)も完工され,中国のインターネットユーザに無線機器でインターネットとの接続サービスを提供し始めたのである。
中国語でISPは“互聯網服務提供商”,ICPは“互聯網内容提供商”と呼ばれている。電子メールやホームページ等のインターネットサービスは中国の普通の人に提供されたのが1995年1月であるが,本格的インターネットサービスは基幹ネットワークの完工及びインターネット管理方法実施が始まった1996年からのことと考えられる。ISPとICPは中国で本当に最近の3,4年間のことであるが,しかし,インターネットユーザの急増に伴い,現在中国でISPは520個を突破した(中国政府の《中国Internet発展状況統計報告》より)ことが分かった。提供されているインターネットの接続方式は多様化しており,地域によって,多少の違いが存在している。普通の電話線を利用するモデムダイヤルアップ接続方式は多くのインターネットユーザに利用されているが,ISDNやテレビ放送を利用するケーブルモデム方式等のような新しい技術は北京,上海及び広東などの沿海地に利用し始めている。その他は,政府や企業等のインターネットユーザに提供されている専用ケーブル接続方式,衛星マイクロ通信を利用するマイクロ通信接続方式及び光ファイバ専用ケーブル方式等が増加し続ける趨勢も浮上しているのである。最近では,有線テレビ放送システムを利用するインターネットのケーブルモデム接続方式の人気度がアップしている。光ファイバを利用している中国の有線テレビ放送システムの基幹ネットワークは全国2000戸以上の都市に分布され,幹線及び支線の光ファイバーの総延長は1150キロメータを超え,ISDNの通信速度より数十倍早いケーブルモデム方式はこれから発展し続けると予想できるだろう。
上述の各接続方式のコストから考えると,コストが一番低いのはダイヤルアップモデム接続方式と考えられる。初期コストがなくて接続コストも一番低い(5元/h左右,日本円で約70円/h)モデムダイヤルアップ接続方式はインターネットユーザの多くに人気がある。ISDNやケーブルモデム等のような接続方式は初期コストが3000元―5000元(日本円で約4万円―7万円),1時間の接続費用は5元―7元(日本円で約70円―100円)である。ISDNやケーブルモデム等の高速接続方式は,ユーザに対する人気度が上昇しているが,コストが高いため,普及するまでまだ,時間が掛かるだろう。
ISPをベースとしているICPは,現在の中国で1000個を超えている。仕事の内容はホームページの製作やネットワークサーチエンジンの開発等が主流と考えられるが,最近にコンピュータネットワークをベースとしている電子商務システム等の開発も注目されている。中国の人々の考え方によって,作成された中文ネットワークサーチエンジンが全国で数十個が存在する。参照として,筆者の知っている範囲で分類の合理性,注解内容を理解する容易性,英文と数字キーワードのサポート等の側面から,利用率の高い幾つかの中文ネットワークサーチエンジンを比較した結果は,下記の表で示す。
コンピュータネットワークを利用している電子商務は,航空,鉄道会社等のチケット販売,金融証券及び通信販売等から始め,中国社会生活の多くの領域に浸透して急速増長しているのである。現在,中国でネットワーク上の証券取引ユーザは4000万を超え,航空会社等はコンピュータネットワークチケット販売システムを利用し,年間5500万枚以上のチケット販売を実現した。ネットワークを利用しているICカードやクレジットカード発行数は11000万枚以上であった。最近,ネットワークの普及に伴い,電子納税,遠隔教育及び遠隔医療等の新しいシステムの利用にも,人気上昇の趨勢は顕著である。
中国のコンピュータネットワーク発展状況を言及できるのは,正式的な統計情報が入手できる1997年からのことと考えられる。1997年,中国互聯網絡信息中心は中国コンピュータネットワークの発展状況について,ネットワークの利用者人数,コンピュータ台数,CN(China Network)ドメインの下に登録されたドメインネームの個数などの側面から,第一回目の《中国Internet発展状況統計報告》を作成して同年内に発表した。同じ統計期間は1998年7月に第二回目の《中国Internet発展状況統計報告》を発表した。その後,中国インターネットネットワークの発展に応じて,上述の統計報告は1998年7月から約半年ごとに発表され,最新の統計報告は今年の7月に発表されたものである。
《中国Internet発展状況統計報告》により中国コンピュータネットワーク上のコンピュータ台数は,2000年6月30日まで650万台に達成したのであった(表1)。1997年10月31日現在での29.9万台より,約22倍の増加である。1997年10月31日から半年ごとに約2倍速で増加したことが分かる。CNの下に登録されたドメインネームの個数は2000年6月30日までに99734個であり(表2),1997年10月31日までの4066個と比べて約25倍に増えたのである。最新の統計報告によると,中国コンピュータネットワークの利用者人数は現在1690万人となり(表3),1997年10月31日までの62万人より27倍以上が増加した。WWWプロバイダの個数は現在に27289個であり(表4),1997年の1500台と比べて18倍以上に増えたのである。一方,インターネットユーザ数の地域分布を見ると,北京は21.24%,上海は11.21%,広東省は12.94%を含め,この三つの地域はインターネットユーザの約半分を占めたことが分かった(表5)。上述の統計情報により,中国のコンピュータネットワークは最近の2,3年間に猛速で発展し続けたが,総合的に見ると地域発展の不均衡が存在し,中心である大都市及び沿海地から内陸への浸透については,大きな発展潜在力が存在していることが分かる。