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京都大学 元総長 松本 紘 様

Accumu 京都コンピュータ学院55周年・京都情報大学院大学15周年

祝辞 国立研究開発法人理化学研究所 理事長
京都大学 元総長 松本 紘 様

2018年11月1日

国立研究開発法人理化学研究所 理事長
京都大学 元総長
松本 紘 様

国立研究開発法人理化学研究所理事長 京都大学元総 長松本 紘 様

この度は,京都コンピュータ学院創立55周年,京都情報大学院大学創立15周年,誠におめでとうございます。5年前の京都コンピュータ学院創立50周年,京都情報大学院大学創立10周年に続き,こうしてご挨拶できますこと,大変嬉しく思います。と同時に,時の流れの速さを痛感いたしております。

皆様ご存知の通り,京都コンピュータ学院は,我が国の最初のコンピュータ教育機関です。私の母校である京都大学,特に宇宙物理学教室の出身の有志によって設立されました。また,我が国最初のIT専門職大学院である京都情報大学院大学も,教員の30%以上が京都大学の名誉教授や卒業生であるだけでなく,茨木俊秀現学長含め,歴代の学長は京都大学の名誉教授の方が務めておられます。京都コンピュータ学院や京都情報大学院大学が纏う,多様な人材を懐深く受け入れ,既成概念にとらわれず新しいことを学び創造する意欲を大切にする風土が,京都大学の「自由の学風」と親和性が高いのは,創立当初からの深いご縁がもたらすものと考えます。

京都コンピュータ学院,京都情報大学院大学には,関西圏だけに留まらず全国から,ときには海外からも学生が集います。そして,卒業生を全国の企業に輩出いただいております。まさに,我が国の急速かつ高度な情報化社会への変貌の屋台骨を支えてきた学び舎,と言えるのではないでしょうか。私が知っているだけでも,大手IT関連企業に就職し,ITと経営両方を担う中核的な役割を果たす方や自ら起業する方,現場の最前線で大型コンピュータのソフト開発,パソコンのハード・ソフト開発に打ち込む方,さらには,マルチメディアやゲーム,CGアートの創作など,幅広い分野で卒業生が活躍されています。今から半世紀以上前に,国際的な情報化の波が押し寄せることを予見し,学問としての情報学を修めるだけでなく,社会での実践を見据えて創造性を育むことに重きを置いた教育の重要性を訴えた,学院創立者の長谷川繁雄初代学院長,靖子現学院長の先見の明の素晴らしさを,改めて感じております。

一方で,Society 4.0と言われている情報社会も,完璧ではありません。膨大な情報量に溺れてしまい,適切な情報にたどり着けないといった問題があります。せっかく情報という宝が大量に眠っているのに,人が主体的に情報へアクセスし解析しなければ,メリットを享受することができません。現在,政府が推進しているSociety 5.0では,「ビッグデータ」という宝を,ある面では人間の能力を超えている「人工知能(AI)」が絶えず解析しつづけます。そして,IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながることで,最適な情報や解を最適なタイミングで得られる,共有できる社会を目指しています。

このとき,我々が暮らすフィジカル空間での情報取得にはセンサー,情報のフィードバックにはウェアラブルデバイスやロボティクスの活用が期待されています。また,サイバー空間でのビッグデータ解析は,先ほど申し上げた通り,AIの導入が必須です。IoT,ロボット,AI,ビッグデータといったこれからの未来を形作るベースとなる技術には情報学が必須であり,いままで以上に,厳しい実践と豊かな創造性を求められることは明白であります。これを裏付けるかの如く,経済産業省の調査では2019年をピークにIT人材供給は減少傾向となり,一層不足数が拡大することが予想されています。ニーズは膨らみ続けることから2030年には約60万人程度まで,人材の不足規模が拡大すると言われています。京都コンピュータ学院・京都情報大学院大学の我が国における期待,重要性は増すばかりです。

しかし,私たちは闇雲に,科学技術力を伸ばすだけではいけない,と考えます。未来社会を考えたとき,科学の進歩だけでは解決できない,人の心や在り方,倫理など,人としての総合的な思考力・知力が問われる難題が立ちはだかります。世界人口は増え,資源は枯渇します。それに伴って様々な社会問題が起きています。これに立ち向かう「勇気」と,優れた科学技術を正しく用いる「品格」を,我々は持たねばなりません。

また,科学技術はもともと,哲学から独立した一つの分野として発展してきました。しかし,残念なことに,近年専門領域が細分化し,科学者の間では国際的な論文競争を勝ち抜くため,さらに狭い道を邁進する傾向が顕著になっています。情報学の分野でも,他の手法との差別化を図るため,ニッチな領域を攻めざるを得ないことが,あるのではないでしょうか。身の回りの社会問題の解決には,未知の分野への挑戦や,専門分野を超えて取り組むことも重要です。例えば,未だ科学になっていない,すなわち「未科学」への挑戦には,目の前の競争だけにとらわれない「勇気」も必要です。旧約聖書には,神が自らの身体の一部を用いて自分に似せて人を創った,といったことが記されています。ヒト細胞から,網膜や臓器などを創ることができるiPSは正に,「未科学」を「科学」にした勇気ある成功例といえます。

京都コンピュータ学院・京都情報大学院大学の皆様には,これからも創立当初のスピリッツを忘れることなく「独立独行」,自らを律し,未来への勇気ある挑戦を続けてもらいたいと強く願います。そうして価値ある伝統を継承していくことが,京都コンピュータ学院・京都情報大学院大学が今後も,真に社会に貢献する情報科学の場として輝くことに繋がると期待しております。

最後にKCGグループのますますご発展と,皆様方のご健勝を祈念いたしまして,私のご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。

国立研究開発法人理化学研究所理事長 京都大学元総 長松本 紘 様