京都市ブースを中心としたジャパンエキスポの様子とロンドンで行われたマンガ展について武田康廣教授に,今回のジャパンエキスポをフランスにおけるマンガ・アニメの受容と交えた考察を渡邉昭義教授に執筆していただきました。(アキューム編集部)
2019年7月4日~7日にフランス・パリで開催されたジャパンエキスポに参加してきました。もちろん京都コンピュータ学院,京都情報大学院大学の一員として。今回の参加が今までと違うのは京都市が3年ぶりに出展し,その1コーナーにKCGが出展したということです。
京都市のブースはいわゆる合同ブースであり他にはゲーム会社展示や和菓子実演販売,太秦映画村からは殺陣実演など京都ならではの展示やイベントが催されました。
今回のテーマは「本物の京都を見せる」でした。なぜそのようなテーマなのか。それは僕武田が2年前の2017年のジャパンエキスポに初めて参加した時に遡ります。
初めてのジャパンエキスポはその規模の大きさに驚きました。催されているその全てが日本をテーマとしたもので,マンガ・アニメ・ゲームというブームに乗ったものだけでなく日本文化の隅から隅までが展示され,実演され販売されています。「これは凄いイベントだな」が一番の印象でした。そして4日間のイベントを自分の仕事の合間に見て回りました。そして,わかったことがあります。それは日本的なものがたくさんある。もちろん日本からわざわざ持ってきて展示されているものも多くあり,日本人や地元のフランス人が演じているものも多い。日本から来ているアイドルやコスプレイヤー,漫画家,アニメ監督などです。
しかし,それらの一部以外は何か違うのです。特に色々な展示や販売されているものが日本ぽいけどコピーのような感じで偽物とまでは言わないが,本物感が無い。
なんだろうこの隔靴掻痒な感じはと。マンガやアニメ,ゲームは本物であるし海賊商品はない。だからそのへんは関係ありません。
徐々にわかったのは,日本ぽい雰囲気の多くは「和」の表現。その「和」の中心である「京都」っぽさが薄いのです。いわゆる「なんちゃって京都」なのです。
なので今回の京都市のブースのテーマは「本物の京都を見せる」と考えたのです。それを元に京都市に企画提案し,少しだけ聞いてもらえました。結局は予算の関係か徹底不足なのか「本物の京都を見せる」感は薄かったのが僕の印象でした。でもその中で光ったのは太秦映画村から来てもらった殺陣師の方々の殺陣と一般参加者と一緒の殺陣と撮影。これは多くの参加者が楽しんでいました。舞台も近く,目の前で刀が舞う。これはなかなか日本にいても体験できない。見ている僕も楽しかった。
日本から大学や専門学校も出展していたようですが,あまり目立っていませんでした。KCGも今回は1コーナーだったのであまり目立たなかったのが残念です。考えれば学校のブースがそんなに目立つことは難しいですよね。
ジャパンエキスポ自体ではマンガのブースが非常に多く,ゲームのブースが一層広く大きかった。残念なことは3年前にはたくさんあったアニメ関係のブースが今回は殆ど無かったということです。これはアニメが本格的に配信が中心になったということらしい。
イベントの中で一番人気は「たこ焼き」「おにぎり」「模造刀」の販売。特に「たこ焼き」ブースの行列はいつまでも途切れない!でもその味は残念な感じで,ただの丸く焼いた小麦粉でした。「たこ焼き」は僕に焼かせろと思いました。おまけに高かったしね。「おにぎり」はツナマヨオンリーで。それ以外は食べられないそうです。おまけに肝心のノリは食べない人が多く捨てていました。なんでだ!
とはいえ,ジャパンエキスポの参加者は多く,年齢も幅広い。家族連れもいました。コスプレも家族でが当たり前。すごく楽しんでいました。こんな楽しいイベントを日本が好きで好きで仕方がない人たちが主催し,そして参加してくれています。だから僕たちも思いっきり楽しい日本を,京都を見せなくてはいけないと考えるのでした。
ビジネスチャンスもこのあたりにあると思いました。
ジャパンエキスポは2000年6月に第1回が開催され,そのときの来場者数は3200人ということですが,急速に来場者数が増え,2008年の第9回で13万人を超え,たくさんの日本好きの集まる海外イベントとして日本でも有名になり,最近はやや横ばいですが毎回20万人以上を集めるイベントとして定着しました。今年のジャパンエキスポの来場者数は4日間で約25万2千人で過去最高を記録しました。出展ブース数は798(日本からのブース234)で,これも今までの記録を更新しました。
主催者によると今回のテーマは『アニバーサリー』と『未来』でした。
20周年記念コーナーが設けられ,毎年作られるイメージイラストがずらりと展示されていたり,過去のゲストのパネルなどが飾られていました。
今年は第20回ということで多くのゲストが呼ばれていましたが,特に,マンガ名誉ゲストして永井豪が呼ばれ,スペシャルゲストとして松本零士が呼ばれていたのはフランスにおいてマンガ・アニメが初めてフランスで受け入れられ,ジャパンエキスポが開催されるきっかけを振り返る意味で重要です。
永井豪はデビューから50年を超えた漫画家ですが,フランスで『UFOロボグレンダイザー(フランス名Goldrak)』が1970年代末にテレビ放映されて絶大な人気となりました。テレビ局が少ないこともありましたが,視聴率100%を記録したという伝説のアニメです。日本ではマジンガーZの方がずっと有名ですが,グレンダイザーはジャパンエキスポ開催のきっかけのシンボルともいえる作品です。会場では永井豪の特設ブースが作られ,複製原画などのパネルやロボットの像などで画業50年の歩みを振り返っていました。名誉ゲストとしてジャパンエキスポの会場で登壇した永井豪はフランス政府より芸術文化勲章「シュバリエ(騎士)」を授与されました。
松本零士は,日本では『銀河鉄道999』などで有名な漫画家ですが,フランスでは『宇宙海賊キャプテンハーロック(フランス語名CAPITAINE ALBATOR)』が大人気で,2013年に公開された3DCG版の『キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』はフランスで日本以上の興行収入を挙げました。今年のジャパンエキスポでは松本零士のフランス語話者のウェブリングの展示がありました。松本零士の生い立ちや様々な作品紹介のパネルとともに,アーチストOlivier Duhectが作成した2メートルのアルカディア号が展示されていました。アルカディア号には松本零士のサインがされていました。
2019年はガンダムテレビ放映40周年の年であり,ガンダムについてはジャパンエキスポ会場の入り口にガンダムの大きな像がおかれ,40周年記念ブースが作られてガンダムの歩みをパネルとプラモデルのジオラマなどの展示で振り返っていました。名誉アニメゲストとして招かれた富野由悠季は,劇場版『ガンダム Gのレコンギスタ I』の世界初上映で舞台挨拶をしていました。ブースでは富野監督の担当した「ザンボット3」なども触れられていました。実はガンダムは欧米ではあまり人気がありません。フランスではAssociation pour l'essor de l'univers Gundam(ガンダムの世界を世に広める会)という非営利団体があり,2011年から2016年までジャパンエキスポにブース出展していたのですが,最近の活動は限定的のようです。もちろんフランスでもガンプラなどのグッズは大人気で人だかりができていましたが,人気があるのはガンダムWあるいはガンダムSEED以降のガンダムで,初代ガンダムやZガンダムなどの古いガンダムはあまり知られておらず人気がありません。ジャパンエキスポ内のコスプレでアムロやシャアのような人物は見たことがなく,ガンダムそのもののコスプレがたまにあるくらいです。
フランスで日本のマンガ・アニメが大人気という話はよく聞きますし,ジャパンエキスポ会場に行けば,多数見かけるマンガ・アニメキャラクターのコスプレやグッズを買い集める人たち,ステージで盛り上がる人たちなど熱気を直接感じることができます。ただ,日本のマンガ・アニメのファンからすると少しずれた印象を受けると思います。もちろん,例えば,デパートにおけるフランス展が必ずしもフランスを代表するわけでもないように,ジャパンエキスポに訪れる人が日本のマンガ・アニメファンを代表するわけでないという前提でありますが。それは日本人の感覚でいうと人気のある作品の数が少ない,深夜アニメがあまりないということです。二度の大戦の記憶がいまだ残るところでガールズアンドパンツァーはタブー視されているのかしら?とか,ハリウッド映画ディズニー作品のコスプレはぴったりはまっても,「ラブライブ!」や「アイドルマスター」などは似合う人はあまりいないのではと思います。偏見かもしれませんが,以前,Anima Festival Asia インドネシアに行った時に比べるとそう感じるのです。
さて,日本のアニメはフランスで本当にたくさん見られているのでしょうか?本当のところはどうなのでしょうか?JETROの調査結果から紹介します。現在,フランスでは日本のアニメがテレビ放送されることはほとんどありません。法律で外国の番組をたくさん流してはいけないとか理由はあるようですが,日本のアニメがフランスで大人気という話が信じられないほど少ないです。実際,私が滞在中にテレビを見たときは子供向けのアニメはたくさん放映されていましたが,日本のアニメは見ることができませんでした。現在では,主に民放のTFXという局が日本のアニメを放映しているようです。「ナルト」,「ドラゴンボール超」や「僕のヒーローアカデミア」などの他,「キャプテン翼」や「シティーハンター(フランス名 Nicky Larson)」など古い作品の再放送もしています。「シティーハンター」はフランスで実写映画が作られ大ヒットしました。ネットではクランチロール,ネットフリックスとJ‒ONEがほとんどのようです。J‒ONEはアニメについては日本専門ですが,フランスのテレビ放送事業者は,年間放映番組の60%以上を欧州番組とし,うち40%以上は仏語を原語とする番組でなければならない,という規則があるので,日本文化紹介のフランス語の番組をたくさん流しているようです。アニメ作品のラインアップは「ナルト」を中心に多く取り揃えています。しかし,日本のアニメファンからするといささか偏っているように思われます。ジャパンエキスポではマンガ単行本,アニメDVD/BDなど販売していましたが,フランスではDVD自体売れず,あくまでファンがグッズの一種として購入するようです。画質が違うのかもしれませんが,昔のアニメのDVDをかなり安く売っているのを見かけました。ちなみに,フランスではDVDはリージョンコードが日本と同じですが,PALですので,パソコンなどで再生しなければならず,BDはリージョンコードが異なります。
アニメのストリーム動画配信は,Anime Digital Network(ADN),Crunchyroll,Wakanimなどがプラットフォームです。アニメのブース自体はかなり少なくなりましたが,Crunchyrollのブースは目立っていました。
少女マンガもありますし,BLのブースがありました。全世界共通なのかわかりませんが,少なくともフランスに腐女子がたくさんいることに気づきました。
純粋に日本のものでないマンガやゲームもありました。
最近で有名なのはトニー・ヴァレントが作ったバンド・デシネであるラディアンです。日本でコミックが発売され,2019年初めにNHKがアニメを作って放映されたラディアンは第2期が10月から放映されるとあって,人気でした。すぐ近くにラディアンのブースがあって作者のサイン会が行われていました。フェアリーテイルなどの影響を強く受けながら,どこか日本のコミックと違う味のあるラディアンが日本でも成功を収めているとなれば,フランスの日本マンガ・アニメファンも誇らしいのではないでしょうか?ゲームについても,日本の影響を強く受けたゲームであるKROSMOZシリーズが10周年記念としてブースができて美術資料などが展示されていました。これからは,フランスでも受けそうな日本のコンテンツをフランス向けにローカライズするだけでなく,フランスで受けそうな(そして日本ではマイナーな)日本のクリエイターを発掘して輸出する方向性もあります。例えば,キューン(Ki-oon)で作品を発売しているTAKIZAKI Mamiyaなどがいます。キューンが日本コンテンツを輸入するための実績作りだったかもしれませんが,継続的に漫画家を探しているようですし,ひょっとすると日本の漫画家がフランスでマンガを発表しそれから日本に逆輸入されるものも出てくるかもしれません。
私にとっては2014,2017,2019年と3度目のジャパンエキスポでありますが,喜々としてコスプレしたり,グッズを買いまくったり,ライブを見て日本語で歌ったり,というフランス人(と近隣諸国の人)が溢れかえって毎回圧倒されます。しかし,私自身はずっと違和感があります。私はマンガ・アニメをたくさん知っているわけではありませんが,なんだか,コスプレが少数の有名な作品ばかりで,フランスで人気のある作品とない作品の差が激しいように思います。「日本最高!」と言ってくれるのはうれしいけれど,日本のモノを無条件にいいものとするような人たちとその人たちに日本のモノ・コトを売ろうとする日本の企業・自治体との関係はよいのかもしれませんが,なんとなく釈然としないものがあります。私が第一世代のオタクだからなのでしょうか?トリスタン・ブルネという人は,ジャパンエキスポにおける(過度な)スタンダード化と(オタクの)特権性の薄まりを嘆いていますが,たぶん似通った気分であろうと思います。ジャパンエキスポの入場者の主体となっているのは1990年代以降の人たちであり,日本国内のアニメの世代間の落差とも共通するところはあるのかもしれませんが,国の差なのか世代の差なのかわからないところもあります。
付録「大英博物館 ・ マンガ展」 | 武田 康廣
ジャパンエキスポが終わった後KCGのメンバーとは別れて僕は一人でロンドンに向かった。初めてのイギリス上陸である。せっかくなのでパリから電車で移動した。3時間かからずにロンドンに到着。そのままホテルにチェックイン。翌日は大英博物館の開館前から博物館前のスタバでラテを飲みながら待機。開館直後に入場しマンガ展会場にまっしぐら。マンガ展の感想は「素晴らしい」の一言に尽きる。
最新の作品から昔の作品までコスプレ文化やコミケにまで言及する幅広い展示。特に星野之宣氏の宗像教授シリーズの展示は面白かった。なにせこのシリーズの最終回は大英博物館が舞台となっている。宗像教授と同じ道を辿って博物館内を歩くのは楽しかった。
展示方法も大胆で壁に展示しているだけではない。立体的に上から吊っていたり奥行があったり,もちろん原稿そのものを展示している。印刷物でない鉛筆の線がわかる作家の息遣いがわかる。もちろん複製原画なのだと思うけど,それでも限りなく本物が見られるのは素晴らしい体験である。
作品によってはフィギュアを展示していた。日本から運んでくるのは大変だっただろうな。壁際にも作品が展示され,キャラクターがパネルで大きく貼ってある。これも見ごたえがあった。
あまりにも多くの作品を展示していたが,それでもマンガの全てを網羅できるわけがない。しかし,エポックな作家,作品を展示し分類しているのは素晴らしく,日本国内でもできればいいのになあと思うことしきりであった。